沢田源内

沢田源内とは



沢田源内(1619年 - 1688年)は、江戸時代前期に活躍した偽書・偽系図の製作者です。幼名を喜太郎といい、近江国(現在の滋賀県)の出身です。彼は、佐々木氏の正統である六角氏の嫡流を自称し、六角中務氏郷や六角兵部氏郷と名乗りました。その生涯は、偽りの経歴と数々の偽書によって彩られています。

生涯



源内の父・沢田喜右衛門は元百姓でしたが、後に武士となり沢田武兵衛と改名しました。源内は、幼少の頃から容姿が優れていたため、青蓮院門跡尊純法親王に小姓として仕え、書や詩文を学びました。しかし、盗みを働いたことで故郷に帰ることになります。その後、山伏となり尊覚と号しましたが、還俗して源内と名乗り、東福門院和子の家司大納言飛鳥井雅章に仕えたものの、いずれも長続きしませんでした。

その後、源内は佐々木氏の嫡流「近江右衛門義綱」と称し、1653年に江戸に出て水戸藩主徳川頼房に自作の系図を献上し、仕官を試みました。しかし、六角氏の正統である佐々木義忠の激怒を買い、仕官を断念して近江に逃亡し、六角兵部氏郷と名乗りました。この騒動により、父の武兵衛は源内と縁を切り、家督は弟の権之丞が継ぎました。

源内は京都に移り、後鳥羽天皇から代々「中務大輔」の官職を授けられたとして「六角中務」を名乗り活動しました。彼は、自分の仲間を佐々木氏の分流であるかのように装い、活動を続けましたが、官職を偽る者が処罰される動きが強まると、中務の名を捨てて京都から逃亡しました。

晩年には「六角兵部氏郷」と自署した六角氏系図を作成し、それは大正時代まで伝えられました。1688年頃、数え70歳で病死しました。娘が一人おり、民間の医者の妻となったとされています。

源内による偽書



源内は、数多くの偽系図偽書を作成しました。主なものとして『江源武鑑』『江陽屋形年譜』『大系図』『倭論語』『足利治乱記』『異本関ケ原軍記』『金史別本』などが挙げられます。これらの偽書は、当時の社会に大きな影響を与えました。

1661年から1673年頃には、神戸能房が『伊勢記』の中で、「氏郷と称する自称子孫が、江源武鑑や大系図などの偽書を作成した」と記述しており、源内による偽書が当時広く知られていたことがわかります。

特に源内の著作で強調されているのは、六角氏の正統が六角義実、六角義秀、六角義郷、そしてその子である六角氏郷(源内自身)に受け継がれたという史観です。彼は、これらの人物が参議中納言といった高官に昇り、織田信長と協力して足利義昭を入京させたという内容を主張しましたが、他の史書や史料との整合性が取れないため、厳しく批判されています。

伊勢貞丈成島司直も源内の著作を批判しましたが、これらの偽書は一般に浸透し、多くの系図類や史書、縁起などに影響を与えました。

批判と異説



加賀藩士の佐々木定賢は、1708年に著した『佐々木氏偽宗辯』で、源内の生い立ちから偽書作成について詳細に述べ、厳しく批判しました。また、建部賢明も「大系図評判遮中抄」で、源内が六角嫡流を偽り、佐々木六角氏の系譜に誤解を広めたと非難しています。

一方、在野の歴史家である佐々木哲は、源内の称した六角氏嫡流の流れに真実が含まれている可能性を指摘しています。彼は、沙沙貴神社所蔵の「佐々木系図」に登場する沢田郷重を源内と同一視する従来の説に疑問を呈し、源内の著作は正統な佐々木嫡流たる六角氏郷のことを述べたものであると主張しています。

また、佐々木哲は源内の父を阿部家重臣とし、沢田家を雄琴村の郷士六角氏旧臣と見なしています。さらに、源内の弟を沙沙貴神社所蔵佐々木系図に従い重秀であるとしています。彼は、源内に関する史料が少ない点を指摘し、『重編応仁記』や『大系図評判遮中抄』の信憑性に疑問を投げかけています。

ただし、源内在世中の寛文年間には、神戸能房が『伊勢記』の中で『江源武鑑』の著者を「六角兵部」を称した「沢田氏郷者、沢田夫兵衛之子也」と記述していることから、源内が偽書を作成したという事実は当時から認識されていたと考えられます。

まとめ



沢田源内は、その生涯を通じて偽書や偽系図を制作し、歴史を歪曲しようとした人物です。しかし、その活動は後の歴史研究において重要な資料となり、歴史を多角的に捉える上での教訓を与えてくれます。彼の著作は、歴史の真実と虚偽を見抜くことの難しさを教えてくれる貴重な例と言えるでしょう。

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。