法眼宗

法眼宗とは

法眼宗（ほうげんしゅう）は、中国で成立した禅宗の一派であり、禅宗五家（臨済宗、潙仰宗、雲門宗、曹洞宗、法眼宗）の一つに数えられます。五代から北宋時代にかけて、中国南部を中心に栄えました。

法眼宗の成立と発展

法眼宗は、清涼文益（せいりょうぶんえき）を開祖とします。彼は、曹洞宗の青原行思（せいはんぎょうし）の法系を継ぐ禅僧でした。清涼文益は、南唐の初代皇帝である李昪（りべん）に招かれ、首都の金陵（現在の南京）で教えを広めました。南唐の皇帝であった李璟（りけい）から、その没後に「大法眼禅師」という諡号（しごう）が贈られたことが、法眼宗の名前の由来となっています。

清涼文益は、教えと禅の修行の一致を重視し、禅宗の改革を進め、多くの弟子を育成しました。彼の思想は、当時の仏教界に大きな影響を与えました。特に、江南地方（現在の中国南部）に位置する南唐と呉越の両国で、法眼宗は盛んになりました。呉越では、国王の銭氏一族が、永明道潜（ようみょうどうせん）、天台徳韶（てんだいとくしょう）、永明延寿（ようみょうえんじゅ）といった法眼宗の僧侶を保護し、その勢力を拡大しました。

天台徳韶は、呉越王銭俶（せんしゅく）から国師に任じられ、その教えを広めました。また、永明延寿は高麗（現在の韓国）の光宗（こうそう）の要請を受け、36名の僧侶と共に高麗に渡り、法眼宗を広めることになりました。

法眼宗の衰退と後世への影響

宋代になると、天台徳韶や永明延寿の系統は衰退しました。その後、清涼泰欽（せいりょうたいきん）や帰宗義柔（きしゅうぎじゅう）の系統が、法眼宗の中心となりました。泰欽の門下からは、雲居道斉（うんきょどうせい）や霊隠文勝（れいいんぶんしょう）といった優れた禅僧が輩出されましたが、次第に法眼宗は衰退に向かい、北宋末にはその系統は途絶えてしまいました。

元の時代の禅僧である高峰原妙（こうほうげんみょう）は、法眼宗の宗風を「詳明（しょうみょう）」という言葉で表現しました。「詳明」とは、教えを詳しく理解し、明確に実践することを意味します。

法眼宗は、その短い歴史の中で、中国禅宗に大きな足跡を残しました。特に、教えと修行の一致を重視する姿勢は、後世の禅宗に大きな影響を与えました。また、江南地方における法眼宗の隆盛は、当時の文化や社会にも深く関わっていたと考えられます。

法眼宗は、現代の日本ではあまり知られていませんが、その歴史や思想は、仏教や禅宗を研究する上で重要な資料となっています。

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