法華神道

法華神道とは

法華神道は、法華経の開会の思想を基盤とする、日本固有の神々への信仰です。これは、仏教の教えと神道の信仰が融合した、独特な宗教観を形成しています。

信仰の中心

法華神道において、信仰の中心となるのは三十番神です。三十番神とは、毎月交代で国家や人々を守護するとされる30柱の神々のことです。日蓮の弟子である日像が、この信仰を日蓮宗や法華宗に取り入れたとされています。室町時代には、この信仰は教団内に広く浸透しました。また、伝教大師最澄が比叡山に初めて祀ったという説も存在します。

祭祀の特徴

法華神道の道場や社殿では、三十番神が守護神として祀られました。祭壇の形式や祭祀の方法は、天台宗の日吉神社祭祀を参考にしましたが、天台宗のように専門の神職を置くことはありませんでした。勧請などの儀式は、宗徒自身によって行われました。

歴史的な出来事

神道家の吉田兼倶は、日蓮宗の番神信仰について質問状を提出し、「番神問答事件」を引き起こしたとされています。この問答は『番神問答記』に記録されています。

法華神道は、鬼子母神や十羅刹女とともに、法華経を守護する善神として尊重されてきました。しかし、明治維新後の神仏分離政策によって、その勢いは衰退しました。

蓮門教の出現

一方で、天台宗や日蓮宗とは直接的なつながりはないものの、法華神道を背景とする新宗教「蓮門教」が生まれました。蓮門教は、明治時代に一時的に教勢を拡大させました。

蓮門教について

創始者と成立

明治時代初期、島村みつ（旧姓：梅本）が日蓮教学を基盤とし、神道の儀礼を取り入れた法華神道系の新宗教「蓮門教」を創唱しました。みつは、1831年に長門国（現在の山口県）で生まれ、当初は農家の娘でしたが、後に離婚し、九州で日蓮宗寺院の下女として過ごしていました。そこで、法華神道の祈祷師である柳田市兵衛と出会い、彼から影響を受けたとされています。

1871年頃、みつは「神の託宣」を受けたと称し、市兵衛の祈祷によって大病から回復。その後、市兵衛の弟子となり、1877年に市兵衛が亡くなった後は、その後継者として活動を始めました。1878年には小倉に「事の妙法敬神所」を開設し、「事の妙法様」を祀り、神前で「事の妙法、南無妙法蓮華経」と唱える独自の祭式を執り行いました。

教義と活動

蓮門教の祭祀では、中臣祓、大祓、禊祓などの神道の儀礼に加え、「二善釈門、寸善尺魔、法謗退治の御祈祷、法華折伏、破言門離、事の一念の妙法蓮華経」といった独自の文言が用いられました。また、「御神水」を用いた病気治療や、お籠りなどの活動も行われ、「事の妙法様を信仰し、御神水を頂けば病気も治り現世利益がもたらされる」と説きました。

教勢拡大と衰退

みつは、当初小倉で活動していましたが、その後東京に進出し、チフスやコレラが流行している時期に、「チフスやコレラに効く御神水」を販売し、急速に信者を増やしました。最盛期には、天理教や金光教に匹敵するほどの勢力を持ったと言われています。

しかし、医学的な根拠のない治療行為や、催眠商法のような手段で財を成していたことが問題視され、1894年に内務省の取り締まりを受けました。この事件により、上部団体の神道大成教からみつの神道教師の資格が剥奪され、蓮門教の勢いは急速に衰退しました。

その後

みつは1904年に亡くなり、国家神道の確立によって、神仏混淆の法華神道は衰退していきました。蓮門教も1916年に分裂し、1940年にはほとんどの教会が廃絶しました。1964年には、最後まで残っていた「宗教法人神道大成教蓮門和田講社」が解散し、蓮門教は完全に消滅しました。

現在では、法華神道系の宗教法人は存在していません。

参考文献

日澄「法華神道秘訣」『日蓮教学全書 10巻』藤田宗繼。
蓮門教本祠／編『弁妄』1894年（明治27年） 蓮門教本祠

関連情報

吉田兼倶（吉田神道）
山王神道
国柱会

外部リンク

法華神道 - コトバンク

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