波平暁男

波平暁男：戦時歌謡を歌い、沖縄の歌を愛した歌手

波平暁男（なみひら あきお）は、1915年（大正4年）4月1日に沖縄県平良村で生まれた、昭和期の著名な歌手です。本名は波平惠弘（なみひら けいこう）といい、戦時歌謡を中心に活躍しました。「若鷲の歌」や「海行かば」は彼の代表作として知られています。

若き日の音楽への情熱

波平は旧制中学校時代に関東州立大連第二中学校で学びましたが、音楽の道を志し、旧制宮古中学校へ転校。1933年（昭和8年）に卒業後、東京音楽学校（現・東京藝術大学音楽学部）声楽科に進学しました。在学中には、恩師である信時潔作曲の「海行かば」を、生徒の模範として初めて歌うという栄誉に浴しました。1938年（昭和13年）に同校を卒業後、さらに研究科へと進みました。

戦時歌謡歌手としての活躍

1941年（昭和16年）、研究科在学中にポリドール・レコードから本名でデビューしましたが、レコード会社では「なみのひらえひろ」と読ませました。その後、1942年（昭和17年）にはコロムビアレコードと専属契約を結び、芸名を「波平暁男」と改名。これは当時流行していた「暁」の字を取り入れたものでした。彼の力強いテノールの声質は、軍歌調の楽曲と非常に相性が良く、「若鷲の歌」を霧島昇とデュエットで歌い大ヒットさせました。その他にも、「月夜船」、「君こそ次の荒鷲だ」、「雷撃隊出動の歌」、「勝利の日まで」など、数々の戦時歌謡を歌い、国民を鼓舞しました。「若鷲の歌」の制作にあたっては、作曲者の古関裕而と共に土浦海軍航空隊へ赴き、予科練生の前で歌い、楽曲の完成に深く関わりました。また、沖縄歌謡をベースにした「南方節」なども歌いましたが、こちらはヒットには至りませんでした。1944年（昭和19年）には、その年の最も優れた歌唱をした歌手として、NHKの年間歌唱最優秀賞を受賞しています。私生活では、東京音楽学校在学中に最初の妻と結婚し、3人の子供をもうけました。

戦後の苦難と再起

終戦と同時に、コロムビアレコードとの契約は打ち切られ、戦時歌謡に関わった人物として批判を受けることもありました。約6年間は目立った音楽活動を控えていましたが、酒場を経営するなどして生計を立てようとするも上手くいかず、最初の妻とも離婚しました。1951年（昭和26年）頃から音楽活動を再開し、1953年（昭和28年）には映画『ひめゆりの塔』に沖縄民謡編曲指導として参加しました。戦後は、沖縄の歌に力を注ぎ、1955年（昭和30年）には渡久地政信の支援を受けて、国頭村楚洲のツツジをテーマにした「楚州の花雲」を作詞作曲し、自費出版しました。沖縄本島では6000枚以上を売り上げましたが、全国的なヒットには至りませんでした。その後、NHKに入社し、沖縄での事業に従事。沖縄放送協会では故郷の宮古放送局長を務めましたが、短期間で退社しました。

晩年の活動と最期

昭和40年代の懐メロブームの中で、波平は再び脚光を浴びるようになり、1970年（昭和45年）にコロムビアレコードと再契約し、上京しました。東京12チャンネルの歌番組「なつかしの歌声」にも出演しましたが、軍歌や流行歌を歌うことに抵抗があり、短期間で帰郷。その後は、1970年に再婚した2番目の妻と週末同居の形で生活しながら、音楽私塾を開き、後進の育成と沖縄古歌謡の研究に尽力しました。晩年は熱心なキリスト教徒であったとされています。

1983年（昭和58年）、親戚の結婚披露宴で歌唱中に心筋梗塞で倒れ、そのまま亡くなりました。享年67歳でした。

波平暁男は、戦時中は力強い歌声で国民を鼓舞し、戦後は故郷沖縄の歌を愛し、後進の育成に励んだ、波乱万丈の生涯を送った人物でした。

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