泥利可汗

泥利可汗（Niri qaγan）

泥利可汗は、6世紀後半から7世紀初頭にかけて存在した西突厥の可汗です。彼の生涯は、西突厥が東西に分裂し、隋や周辺民族との複雑な関係の中で揺れ動いた時代を反映しています。

生涯

587年、阿波可汗が葉護可汗に捕らえられたことを契機に、西突厥の国人たちは、木汗可汗の孫にあたる鞅素特勤の子を新たな可汗として擁立しました。これが泥利可汗です。彼は即位後、隋の大義公主と連携し、勢力の安定を図りました。

しかし、彼の治世は決して安定したものではありませんでした。601年には、葉護可汗とともに鉄勒に敗北を喫し、さらに歩迦可汗が隋に対して反乱を起こすなど、内憂外患が続きました。泥利可汗自身も、歩迦可汗討伐の過程で敗北し、戦死しました。

彼の死後、子の達漫が後を継ぎ、泥撅処羅可汗と号しました。

家族

父：鞅素特勤（木汗可汗の子）
妻：向氏（中国出身）
弟：婆実特勤（向氏を娶る）
子：達漫（曷薩那可汗）、闕達度設

昭蘇県石人

新疆ウイグル自治区昭蘇県には、泥利可汗に関連する重要な遺跡があります。それは、モンゴル=キュレに立っている石人です。この石人は花崗岩製で、全長2m30cmにも及びます。石人の腰下にはソグド語の銘文が刻まれており、その解読結果から、この石人が泥利可汗に関するものであることが判明しました。

銘文には、「ムカン=カガンの孫であるパイ=ニリ=カガンがウサギ年(596年)に大可汗として即位した」という内容が含まれています。さらに、別行には「ネズミ年」(604年)という記述があり、これは泥利可汗の没年であることが明らかにされました。これらのことから、昭蘇県石人は、死去した木汗可汗の姿を刻んで建てられたものであると考えられています。

まとめ

泥利可汗は、西突厥の分裂と動乱の時代に生きた可汗であり、その治世は周辺諸国との複雑な関係の中で翻弄されました。昭蘇県石人は、彼の存在を今に伝える貴重な史料であり、当時の西突厥の歴史を理解する上で重要な役割を果たしています。

参考資料

『隋書』（列伝第四十九 北狄）
『旧唐書』（列伝第百四十四下）
『新唐書』（列伝百四十下 西突厥）
『騎馬民族誌２正史北狄伝』 佐口透・山田信夫・護雅夫訳注、1972年、平凡社

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