浄興寺

浄興寺

浄興寺（じょうこうじ）は、新潟県上越市に所在する真宗浄興寺派の総本山です。正式な寺号は歓喜踊躍山浄土真宗興行寺（かんぎゆやくざん じょうどしんしゅうこうぎょうじ）と称し、浄土真宗の開祖である親鸞聖人によって開かれたと伝えられています。かつては越後・信濃・出羽の三国にわたり、およそ90に及ぶ末寺を従えるほど隆盛を極めました。真宗大谷派の別格寺院としての位置付けを経て、昭和27年（1952年）に真宗浄興寺派として独立を果たしました。

沿革

創建と初期

寺の草創は、建保2年（1214年）に親鸞聖人が常陸国笠間郡稲田郷（現在の茨城県笠間市）に招かれ、そこに開いた稲田草庵に始まるといわれています（建暦2年（1212年）説もあります）。元仁元年（1224年）、親鸞聖人が主著『教行信証』を完成させた折、浄土真宗の確立を喜び、稲田草庵を歓喜踊躍山浄土真宗興行寺と改称したと伝わります。嘉禎元年（1235年）、聖人が京都へ戻るにあたり、弟子の善性（ぜんしょう）に仏法二十一箇条の掟と「浄興寺」の山号額を与え、住職の座を譲ったとされます（貞永元年（1232年）説も存在）。弘長2年（1262年）に親鸞聖人が示寂されると、遺言によりその頂骨（ずがいこつ）と遺品が善性に託され、浄興寺に納められたといいます。ただし、これらの創建にまつわる伝承には、後に述べるようにいくつかの異説が存在します。

相次ぐ災難と移転

その後、浄興寺は度重なる火災や戦乱に見舞われ、各地を転々としました。弘長3年（1263年）には、小田泰知の乱によって伽藍が焼失し、常陸国の板敷山（現在の茨城県石岡市）にある大覚寺へ移りました。そのわずか2年後の文永2年（1265年）にも火災により再び焼失し、常陸国の磯辺村（現在の茨城県常陸太田市）へ避難。さらに2年後の文永4年（1267年）には、信濃国の長沼（現在の長野県長野市）へと移っています。

永禄4年（1561年）、かの川中島の戦いの兵火に巻き込まれ、寺は再び焼失しました。この時、13世住職の周円（しゅうえん）は焼死したと伝えられ、寺は小市村（現在の長野市安茂里）に一時避難しました。その後、越後の戦国大名である上杉謙信の庇護を受けて、信濃国の別府（現在の長野県須坂市）に移転しました。永禄10年（1567年）には、上杉謙信の招きによって、ついに越後の春日山（現在の新潟県上越市）へと移ります。なお、この越後への招聘については、上杉景勝によるものとする説（年号不詳）も存在します。

本願寺との関係と独立運動

浄興寺は長く本願寺と深い関わりを持ってきました。永享6年（1434年）、住職の周観（しゅうかん）が上洛し、本願寺7世の存如（ぞんじょ）から親鸞聖人の著作「愚禿鈔（ぐとくしょう）」を書写する許しを得ています。また、文明11年（1479年）には、本願寺8世の蓮如（れんにょ）上人が浄興寺を参詣されました。文禄元年（1592年）には、浄興寺に納められていた親鸞聖人の頂骨の一部が、京都の本願寺（現在の西本願寺）へ分骨されています。

慶長4年（1599年）の本願寺の東西分派に際しては、東本願寺（真宗大谷派）に属することを選択しました。東本願寺からは「同格一門」という特別な待遇を受け、後に「中本山」という格式も認められます。万治3年（1660年）には、親鸞聖人の頂骨に加え、本願寺3世覚如（かくにょ）以来の7代の門主の遺骨も東本願寺へ分骨しました。

しかし、享保7年（1722年）以降、高田に東本願寺の別院である高田掛所（現在の真宗大谷派高田別院）が設置される問題を契機に、両者の対立が表面化します。享保年間末には、「同格一門」の待遇を剥奪され、19世住職の一周（いっしゅう）は掛所設置反対を理由に蟄居を命じられました。さらに元文3年（1738年）、20世住職の真観（しんかん）は地位の回復を東本願寺に願い出ますが拒絶され、京都の本願寺白書院にて抗議の自決を遂げるという痛ましい出来事がありました。この事件の後、浄興寺は一時衰退しましたが、高田藩主榊原家の仲介によって東本願寺と和睦し、復興を果たしました。

近代に入ると、明治9年（1876年）には真宗四派による「宗規綱領」によって「中本山」の格式が否定されます。明治13年（1880年）には、新潟県令に対して真宗大谷派からの別派独立の請願を提出。以降、独立に向けた運動が継続されます。明治21年（1888年）には、親鸞聖人の頂骨と歴代本願寺門主の遺骨を安置するための本廟（ほんびょう）を創建。そして、昭和27年（1952年）に宗教法人法が施行されたことにより、ついに東本願寺からの独立を達成し、真宗浄興寺派本山となりました。

平成元年（1989年）9月2日には、本堂が国の重要文化財に指定。平成15年（2003年）には、その本堂の大規模な保存修復工事（平成大修理）が完了しました。

伽藍と境内

越後国へ移った後も、領主の城地の移転や天災などにより、境内地を3度にわたって移しました。現在の地（上越市寺町）に落ち着いたのは、寛文5年（1665年）の地震被害からの復興が契機とされています。かつては一万坪にも及ぶ広大な敷地に、本堂、鐘楼、経蔵、太子堂、御殿、書院、食堂、庫裏、惣門、中雀門など、壮大な伽藍を構え、寺内に9ヶ寺もの塔頭寺院（たっちゅうじいん）を有していました。

大正4年（1915年）には、付近一帯を焼き尽くした「寺町大火」に見舞われ、本堂と本廟を除くすべての伽藍を焼失するという甚大な被害を受けました。しかし、大正12年（1923年）の御殿や庫裏の再建を始めとして復興が進められ、現在では山門、本堂、本廟、拝殿、鐘楼、太子堂、宝物殿、経蔵、御殿、書院、庫裏、そしてペットの慰霊堂である慈愛堂などが整備されています。

現在の本堂は延宝7年（1679年）頃に建立されたもので、国の重要文化財に指定されています。入母屋造り、杮葺きの大規模な仏堂で、間口28.2メートル、奥行き27.8メートルを測り、新潟県を代表する近世仏教建築として知られています。

かつての9か寺の塔頭寺院も現在まで存続していますが、それぞれが独立した宗教法人格を持ち、真宗浄興寺派の末寺となっています。また、新潟県柏崎市に別院を置くほか、2ヶ寺の末寺があります。

最盛期には、寺の門前には諸国へ教えを伝える従者や多くの使用人が居住し、大変賑わっていましたが、享保年間以降の停滞期に規模が縮小し、現在では門前町と呼べるようなものはありません。

本尊

浄興寺の本尊は、室町時代中期の作とされる来迎形（らいごうぎょう）の木造阿弥陀如来立像です。脇侍は安置されていませんが、親鸞聖人の真筆とされる九字名号（くじみょうごう）と六字名号（ろくじみょうごう）が脇掛（わきがけ）として掲げられています。

寺伝によると、当初の本尊は稲田草庵にあった太子堂に祀られていた親鸞聖人ご自作の聖徳太子像であったと伝えられています。現在、浄興寺の太子堂に祀られている像がそれで、14世の了性（りょうしょう）の代になって本尊を阿弥陀如来に変更したといわれています。

文化財

浄興寺は多くの貴重な文化財を所蔵しています。

重要文化財（国指定）
本堂：延宝7年（1679年）頃建立。入母屋造杮葺き。新潟県を代表する近世仏教建築。
新潟県文化財
親鸞聖人自筆 六字名号
二枚起請文
専修念仏張文日記
絹本著色 法然上人絵伝 六幅
絹本著色 小康和尚像 一幅
宝珠文刺衲袈裟並びに横被
上杉謙信寄進 梵鐘
上越市文化財
絹本著色 親鸞聖人伝絵 四幅
絹本著色 親鸞聖人等身真影 一幅
絹本著色 二尊連座像 一幅
屈輪香合
その他の文化財
真宗古写聖教類（三十二冊）
本願寺歴代門主書状（十七巻四幅、三十通）
親鸞聖人筆「浄興寺」寺号額
宣如上人筆「浄興寺」寺号額
従如上人筆「浄興寺」寺号額
絹本著色 親鸞聖人筆九字名号
御手形六字名号
蓮如上人筆六字名号
山科歳末詠歌（蓮如上人紙碑）
各本願寺からの分骨礼状
絹本着色 法然上人絵伝
絹本著色 法然上人自画真影
絹本著色 三方正面阿弥陀如来立像
絹本著色 三朝七高僧真影
木像 阿弥陀如来立像（本堂本尊を含む二躯）
木造 聖徳太子立像
桐製 親鸞聖人笈（おい）
三祖伝来の念珠（三祖：叡空・法然・親鸞）
金銅製 六角宝塔（親鸞聖人舎利塔）
真鍮製 四角宝塔（本願寺歴代門主舎利塔）
五条袈裟
伝絵天竺繍の七条袈裟
上杉謙信寄進 豆殻太鼓
関長門守の境内安堵状
松平忠輝の禁制
松平筑後守（松平信宗）の寺屋敷取定状 など

異説

親鸞聖人の生涯に関する詳細な記録が少なく、また浄興寺自体が歴史の中で幾多の変遷を経ているため、その創建縁起や一部の歴史についてはいくつかの異説が唱えられています。

親鸞開山否定説：親鸞聖人は自ら新しい宗派や教団を組織することに必ずしも積極的ではなかったとされることから、「浄土真宗興行寺」のような明確な寺号を与えたり、「仏法二十一箇条の掟」のような定めを設けることは考えにくいとする説です。また、親鸞聖人の側近であったとは言い難い善性に住職を譲ったことや、関東布教の中心地であった常陸稲田を離れて信濃へ移ったことは不自然であるとし、稲田草庵の旧跡に建てられた西念寺（稲田御坊）こそが正統であると見なす立場から、浄興寺の開山縁起を後世の創作（フィクション）とする説です。
甲斐移転説：川中島の戦いで13世住職周円が焼死したとされることに対し、実際には焼死を免れ、息子西順と共に甲斐国都留郡小片山（現在の山梨県都留市小型山）へ逃れ、その地で浄興寺を再興したとする説です。東京都大田区東矢口には、この甲斐の浄興寺の法燈を継承したと主張する浄土真宗本願寺派の浄興寺が現在も存在しています。
再興説：親鸞聖人によって開かれた浄興寺は、川中島の戦いの兵火によって一度完全に廃絶したが、後に親鸞聖人の弟子である善性ゆかりの勝願寺が越後方面に教線を広げる過程で、改めて浄興寺を再興したものであるとする説です。

これらの異説は、浄興寺の歴史の深さとともに、解明されていない部分があることを示しています。

交通アクセス

えちごトキめき鉄道妙高はねうまライン 高田駅より南西へ徒歩約8分

関連項目

本願寺
西本願寺
真宗本廟（東本願寺）
真宗大谷派
浄土真宗本願寺派
西念寺 (笠間市)

外部リンク

真宗浄興寺派　本山浄興寺
にいがた観光ナビ：浄興寺 - 新潟県観光協会

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