海兵隊マーシャルアーツプログラム

海兵隊マーシャルアーツプログラム（MCMAP）

MCMAP（Marine Corps Martial Arts Program）は、アメリカ海兵隊が開発した近接格闘術プログラムです。このプログラムは、隊員の士気、チームワーク、戦士としての精神を向上させるとともに、既存の徒手格闘やCQC（近接戦闘）技術を統合することを目的としています。2001年に開始されたMCMAPは、海兵隊員および海兵隊に所属する海軍兵に対して、徒手格闘、刃物、状況に応じた武器、小銃と銃剣の技術訓練を提供します。また、リーダーシップ、チームワーク、適切な実力行使を含む精神的および人格的な訓練も重視しています。

歴史

MCMAPは、2002年に海兵隊令1500.54に基づき、「海兵隊員のための革新的な格闘技術であり、他のすべての近接格闘術に取って代わるもの」として正式に制定されました。MCMAPのルーツは海兵隊の創設時に遡り、海兵乗船隊の戦闘能力に端を発します。彼らはしばしば銃剣や短剣の技術に頼らざるを得ませんでした。

第一次世界大戦中、これらの銃剣技術は徒手格闘術で補強され、塹壕戦でその有効性が示されました。その後、アンソニー・J・ビドル大佐は、標準化された銃剣技術、ボクシング、レスリング、サバット、フェンシングをベースにした近接戦闘技術の開発に着手しました。また、この時期には、ウォレス・M・グリーン大尉とサミュエル・B・グリフィス大尉が中国系アメリカ海兵隊員からカンフーの技術を学び、その知識を海兵隊全体に広めました。

1956年、サンディエゴ海兵新兵訓練所の柔道チームリーダーであったラルフ・ヘイワード中佐は、ビル・ミラー一等軍曹を徒手格闘の専任者として任命しました。ミラーは、体重50キロから100キロの海兵隊員が迅速に敵を制圧できる新しいカリキュラムを開発するよう命じられました。ミラーは、沖縄空手、柔道、テコンドー、カンフーボクシング、柔術など、さまざまな格闘技の要素を取り入れてプログラムを作成し、サンディエゴの海兵隊新兵訓練所を通過するすべての海兵隊員がこの戦闘プログラムを受けることとなりました。このプログラムは、アメリカ全軍の特殊作戦部隊や、民間組織にも適用されました。2001年後半には、ビル・ミラー一等軍曹が「海兵隊マーシャルアーツの開発」への貢献を称えられ、名誉ブラックベルトを授与されました。

これらの様々な技術は、1980年代初頭にLINEシステムとして発展しました。しかし、このシステムは、平和維持活動のような致死的な能力を必要としない任務においては、柔軟性や技術が不足していることが判明しました。そのため、海兵隊はより効果的なシステムを模索し始めました。その結果、1997年から1999年にかけて海兵隊近接戦闘訓練プログラムが策定されました。MCMAPは、2000年夏に海兵隊総司令官の主導で導入されました。ジェームズ・L・ジョーンズ司令官は、ジョージ・ブリストル中佐とカード・アーソー上級曹長に対し、海兵隊が持つ約70年間の格闘技経験を活かして、新しいMCMAPカリキュラムを作成するよう命じました。

構造とベルトシステム

MCMAPは、多くの格闘技と同様に、色分けされたベルトによる昇進システムを採用しています。ベルトは以下のレベルに分けられています。

タンベルト: 初期の訓練期間中に着用する最も低いレベルのベルト。知性、人格、身体に関する基礎知識の習得を示す。27.5時間の訓練時間で取得可能で、海兵隊員全員が最低限取得する必要があります。新兵は、すべての基本技術の実技試験に合格することで、タンベルトを取得することができます。
グレーベルト: 25時間の訓練終了後に取得できる2番目のベルトで、中期基礎訓練の理解を示す。海兵隊員は、海兵隊研究所の「リーディング・マリーンズ」コースを修了する必要があります。また、多くのインストラクターは、マリーン・レイダースが発行する報告書を求めています。
グリーンベルト: 3番目のベルトで、25時間の訓練が必要です。これは様々な技能の中期基礎訓練を理解していることを示します。グリーンベルトは、インストラクターになることができる最初のベルトであり、タンベルト、グレーベルト、グリーンベルトの訓練生への指導、およびベルト授与が許可されます。このベルトを取得するには、上官の推薦が必要です。
ブラウンベルト: 33時間の訓練が必要な4番目のベルトです。このベルトは、取得者がさまざまな技能について高度な理解を持っていることを意味します。グリーンベルトと同様に、ブラウンベルト保持者は、マーシャルアーツ・インストラクターとして、タンベルトからブラウンベルトまでの訓練生を指導することができます。このベルトを取得するには、上官の推薦が必要です。
ブラックベルトレベル1: 最も高い色のベルトで、40時間の監督付き訓練が必要です。これは、様々な分野における高度な知識を示すものです。ブラックベルトレベル1のインストラクターは、タンベルトからブラックベルトまでの訓練生を教育し、ベルトを授与することができます。さらに、ブラックベルト保持者は、マーシャルアーツ・インストラクター・トレーナーになることができ、すべてのレベルの訓練生を指導し、ベルトを授与するだけでなく、インストラクターを指導し、認定することもできます。ベルトを取得するには、上官の推薦が必要です。

ブラックベルトにはさらに5つのレベルがあり、専門的な軍事教育を修了した上級士官による、マーシャルアーツ・インストラクターまたはインストラクター・トレーナーとしての適性を証明する推薦が必要です。レベル2からレベル6までのブラックベルトは、その保持者がMCMAPの権威者であることを示します。これらの条件に加え、それぞれのベルトには独自の条件があります。

ブラックベルトレベル2
ブラックベルトレベル3
ブラックベルトレベル4
ブラックベルトレベル5
ブラックベルトレベル6

ベルトはMCCUUに装着されるため、赤、黄色、紫のような色は実用上の理由から除外されます。グリーンベルトを取得した海兵隊員は、マーシャルアーツ・インストラクター（MOSコード0916、旧8551）になるためのさらなるトレーニングコース（海兵隊歩兵学校などで実施）に参加することができます。

MCMAPインストラクターは、他の海兵隊員のベルトレベルを上げるために彼らを訓練し、認定することができます（2010年11月までは、自分より下のベルトレベルの訓練生しか認定できませんでした）。インストラクターの資格は、ベルトに垂直に取り付けられたタン色のストライプで示されます。インストラクターがブラックベルトレベル1より上位に進むためには、マーシャルアーツ・インストラクターコースに参加する必要があります。海兵隊員をインストラクターとして訓練することができるのは、ブラックベルトのマーシャルアーツ・インストラクター・トレーナーのみです。インストラクター・トレーナー（MOSコード0917、旧8552）の資格は、ベルトに垂直に取り付けられた赤いストライプで示されます。インストラクター・トレーナーになるためには、地域のマーシャルアーツ・インストラクターコースを修了する必要があります。その後、クワンティコ海兵隊基地のレイダーホールにあるマーシャルアーツ・センター・オブ・エクセレンスでマーシャルアーツ・インストラクター・トレーナーコースに参加します。

MCMAPの技術は、他の部隊や外国軍にも教えられ、コースを修了した者にはベルトが与えられます。

訓練

MCMAPは、「知性、人格、身体の訓練の相乗効果を暴力に取り込んでいる」と考えられており、訓練はこのシステムの基盤となっています。戦闘の効率を高め、海兵隊員の士気とリーダーシップを高めるために実施されます。前述のように、MCMAPの訓練は、知性、人格、身体の3つの要素に焦点を当てており、海兵隊員は身体と精神の両方に同時に注意を払うことが求められます。安全性も重要であるため、怪我を防止するためのマウスピースやパッドなどの装備が使用され、受け身やスローペースでの練習などの技術が導入されています。MCMAPで習得する技術が海兵隊員にとって必要不可欠であることから、ジェームズ・T・コンウェイ司令官は、2007年内にすべての海兵隊員がタンベルトを取得することを義務付けました。さらに、すべての海兵隊歩兵連隊員はグリーンベルトを取得する必要があり、他の地上戦闘職種は2008年内にグレーベルトを取得する必要がありました。

知性

戦士に関する学習では、功績を上げた兵士や戦闘における武勲について議論や分析が行われます。武術文化に関する学習では、戦士を生み出す社会に焦点を当てます。学習する武術文化の例として、マリーンレイダース、スパルタン、ズールー人、アパッチ族などがあります。これらの文化について学ぶことで、海兵隊員は基本的な戦術と過去の事例を理解し、海兵隊の戦士としての精神と自分自身を結びつけることができます。戦闘時の行動に関する講習では、人間同士の暴力について学び、交戦規則と実力行使について、いつ、どの程度の殺傷力を使用すべきかを理解します。いくつかのベルトを取得するには、専門的な軍事教育コースを受講する必要があります。応用段階の訓練では、状況認識、戦略的および戦術的な意思決定、オペレーション上のリスク管理に重点が置かれます。

人格

応用段階の訓練では、海兵隊の価値観、倫理観、および良き市民としての模範について議論が行われます。インストラクターは、訓練生が信義、勇気、責任を十分に持っていないと判断した場合、彼らを不合格にすることができます。また、いくつかのベルトを取得するには、上官の承認が必要です。実力行使についても議論され、海兵隊員が責任を持ち、最小限の武力で対応できるようになります。リーダーシップも重要な要素とされています。

身体

MCMAPでは、技術および身体づくりに関する訓練が全体の約3分の1を占めます。体力トレーニングには、戦闘技術、強靭さ、持久力の訓練が含まれています。この訓練は、弱い部分を強化するだけでなく、既に習得した技術を改善・維持することも目的としています。技術を応用して慣れるために、地面での戦闘、組み合い、パジルスティック、模擬銃剣などが使用されます。さらに、柔軟体操、完全装備での持久走、丸太運び、ボクシングの試合など、協力や競争を伴う活動を通じて、体力と持久力が試され、強化されます。また、戦闘のストレスを体験させるために、水中や暗闇での訓練も行われます。

技術

MCMAPは、ブラジリアン柔術、レスリング、ボクシング、サバット、柔術、柔道、サンボ、クラヴ・マガ、一心流空手、合気道、ムエタイ、エスクリマ、ハプキドー、テコンドー、カンフー、キックボクシングなどの技術から影響を受けています。

MCMAPで使用される技術は、致死性によってレベル分けされており、使用者は最適な（通常は最小限の）力加減を選択することができます。たとえば、海兵隊員が非暴力的な抵抗者と接触した場合は、最小限の苦痛とダメージを与えることで任務を達成するために、素手による拘束技術を使用できます。さらに攻撃的な対象には、絞め技、締め技、打撃技で対応することができます。致死的な攻撃は、最後の手段として使用されます。武器の有無にかかわらず、多くの技術は防御的にも攻撃的にも使用でき、戦闘、警備活動、人道支援など、自己防衛だけでなく戦争以外の作戦活動にも使用できるため、海兵隊員の柔軟性を高めます。インストラクターは、憲兵が催涙スプレー攻撃を受けた後に実力を行使する場合など、特定の部隊の状況に合わせて訓練を強化することができます。

タンベルト

タンベルトでは、武器を使用しない戦闘の基本を学びます。訓練生は、基本戦闘姿勢（Basic Warrior Stance）から始め、安全のために受け身を学び、これらの技術を習得していきます。

基本的なパンチ、アッパーカット、フック
鉄槌打ち、肘打ちなどの基本的な上半身への打撃
蹴り、膝蹴り、踏みつけなどの基本的な下半身への攻撃
銃剣技術
基本的な絞め技、固め技、投げ技
打撃技、絞め技、締め技への対処
基本的な素手による抑制、武器の基本操作
基本的なナイフ技術
基本的な状況に応じた武器の使用

訓練生は、ベルトを取得するために、50種類の技術のうち7割で習熟度を証明する必要があります。タンベルトの内容は、ベーシックスクールおよび新兵訓練の一部です。

グレーベルト

グレーベルトで習得する技術は次のとおりです。

中程度の銃剣技術
手刀打ち、肘打ちなどの中程度の上半身への打撃
蹴り、膝蹴り、踏みつけなどの中程度の下半身への攻撃
基本的な絞め技、固め技、投げ技
打撃技、絞め技、締め技への対処
中程度の素手による抑制、腕・手首のコントロール
中程度のナイフ技術
地面での基本的な戦闘
中程度の状況に応じた武器の使用

グリーンベルト

中程度のナイフ技術
中程度の状況に応じた武器による妨害技術
地面での中程度の戦闘、アームロック
中程度の銃剣訓練
中程度の側方からの絞め技
中程度の肩からの投げ技
下半身への攻撃
カウンターアタック
素手による関節のコントロール、ペインコンプライアンスの強化

ブラウンベルト

高度な銃剣技術
地面での高度な戦闘、絞め技
高度な投げ技
素手と手に持った武器での戦闘
火器の保持
火器の武装解除
高度なナイフ技術

ブラックベルト レベル1

高度な銃剣技術
高度な絞め技、締め技、投げ技
地面での高度な戦闘
火器への基本的な対処技術
打撃、殴打などの上半身への高度な攻撃
高度なナイフ技術
圧痛点
即席の武器
カウンターアタック

ブラックベルト レベル2

ライフル対ライフル
拳銃対ライフル
素手対ライフル

脚注

出典

この記事には、パブリックドメインであるアメリカ合衆国連邦政府のウェブサイトまたは文書の本文が含まれています。

外部リンク

USMC Martial Arts Center of Excellence - CAC Enabled
Web Version of USMC Manual Close Combat MCRP 3-02B

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