海水準変動

海水準変動とは

海水準変動とは、主に地質時代における地球規模での海水準（陸地に対する海面の相対的な高さ）の変化を指します。海水準が上昇する現象を海進、下降する現象を海退と呼びます。

海水準変動の重要性

過去の海水準変動を明らかにすることは、現在および将来の海水準変動を予測する上で非常に重要です。古気候の研究者は、現在を氷河時代と捉えており、地質時代の中でも海水準が比較的低く、変動が頻繁に起こる時代と認識しています。過去の記録によれば、約1万8千年前の最終氷期最盛期から6千年前までの間に、海水準が120m以上も上昇したことがわかっています。また、3千年前から19世紀までの変動率はほぼ一定で0.1～0.2mm/年程度でしたが、1900年以降は1～3mm/年と上昇傾向にあります。

堆積物から読み解く海水準変動

地質学者は、堆積物に見られる周期的な変化に着目し、その原因を解明しようとしてきました。この周期性は、主に海水準の上昇と下降が堆積過程に反映されたものと考えられています。堆積物の記録からは、海水準が驚くほど低かった時期と、現在よりもかなり高かった時期が繰り返し存在することがわかります。これらの現象は、しばしば地球規模で起こっていることが明らかになっています。

例えば、1万8千年前の最終氷期最盛期には、地球全体の気温が低下し、北欧や北米を中心とした大陸に氷河・氷床が形成されました。海水が陸上の氷となったことで海水量が減少し、さらに水温の低下による体積収縮も加わり、海面は約120mも低下しました。これにより、サンゴ礁は地上に取り残され、海岸線は現在よりも沖合に後退しました。この時期、陸続きになったアジアとアラスカの間（ベーリング陸橋）を通って、人類が北アメリカへと移住したと考えられています。

約12万年前の過去の間氷期には、一時的に海水準が現在よりも約6m高かった時期がありました。バハマの崖に見られる波の浸食痕や、西カイコス島の更新世のサンゴ礁が、その証拠です。これらのサンゴ礁は、海水準が十分に高かった時期に形成されたことを示しています。

また、海水の蒸発に伴い、大気や海洋の酸素同位体比（δ18O）も変化します。海水が蒸発する際、軽い酸素（16O）を含む水分子が水蒸気に多く含まれるため、氷床に固定されると、海水中の重い酸素（18O）の割合が増加します。この酸素同位体比の変動は、気温の変動や大陸氷床の量を示す指標となります。氷床コアや堆積物、サンゴ礁化石に含まれる酸素同位体比を解析することで、氷床の規模変化と地球規模の海水準変動を連続的に明らかにすることが可能です。

海水準変動の原因

全地球規模の平均海水準は、地殻表面の形状と海水の体積によって決まります。近年の地球温暖化問題で考慮される数千年～数万年の時間スケールでは、地殻形状の変化は小さいため、海水準変動のほとんどは海水の体積変化によるものと考えられます。海水の体積変化は、海水量の変化と温度による熱膨張の効果の2つからなります。海水量の変化は、主に陸上の氷との相互変換によって起こります。

長い時間軸では、海洋の形や陸海の分布も海水準に影響を与えます。また、地球内部からの水の出入りによる、地表水の全質量変化も要因となることがあります。大陸移動によって陸の配置が大きく変化したり、プレートテクトニクスの活動によって海洋底が拡大したりすることで、海水準が変動することがあります。大陸地殻が極付近に集まっている時代には、氷期に海水準が著しく低下します。これは極域に雪や氷が集積しやすいためです。一方、陸塊が赤道付近に密集している時期には、氷期の影響は小さくなります。

過去数百万年の新生代氷河時代における氷期-間氷期サイクルでは、海水準は100m以上の変動を繰り返してきました。これは、海水が蒸発して氷床として固定されると海水準が低下し、氷床が融解して海水が供給されると海水準が上昇するためです。現在のグリーンランドと南極の氷床が全て融解すると、海水準は約80m上昇すると予測されています。

日本における海水準変動

日本列島でも、第四紀後期から完新世にかけて大規模な海水準上昇（海進現象）が知られています。一つ前の間氷期に起きた下末吉海進、現在の間氷期に起きた縄文海進、そして8世紀から12世紀にかけての平安海進（ロットネスト海進）などが挙げられます。また、縄文時代後期から古墳時代初頭にかけては海水準が低い時期であった可能性があり、北陸海退が提唱されています。

ローズ・フェアブリッジ教授の海水準曲線によると、8世紀初頭の海水面は現在より約1m低く、10世紀初頭には現在の海水面まで上昇、11世紀前半には再び低下、12世紀初頭には再び上昇しています。これらの海水準変動が、『更級日記』に記述された真野の長者の家の水没の原因であると考えられています。その後、14世紀後半のパリア海退によって海水面は1m以上低下し、16世紀中頃の中世海進で上昇するも、現在の海水面よりは低かったとされています。江戸時代には、現在の海水面より約50cm低かったことから、江戸海退と呼ばれています。このパリア海退から江戸海退の時期は、小氷期にあたるとされています。

最終氷期以降の海水準変動

過去12万年の海水準変動グラフを見ると、最終氷期以降、海水準は大規模な氷床の融解によって120m以上上昇しました。特に、1万5千年前から6千年前までの間には、急激な海水準の上昇が見られ、約90mも上昇しました。平均すると、過去2万年間で3mm/年のペースで上昇していますが、このうち急激な変化を除くと、平均上昇率はそれより低くなります。

また、約1万4千200年前には、融解水のパルス（Meltwater Pulse 1A）と呼ばれる現象が起こり、短期間で海水準が約20m上昇しました。近年の研究では、北半球のヤンガードリアス期よりも早く南半球で寒冷化の影響が現れており、南極の融解水が寒冷化の主な原因として、南から北へ伝わったことが示唆されています。

過去6千年間、世界的な海水面は徐々に現在レベルまで上昇しており、平均して0.5mm/年、過去3千年間は0.1-0.2mm/年のペースで上昇しています。ローマ時代の文献からは、イタリアでは紀元後数百年は海水準が安定していたことがわかっています。

これらの研究を通じて、海水準変動のメカニズムや過去の変動パターンを理解することは、今後の地球環境変動を予測し、対策を講じる上で非常に重要となります。

出典

英語版Sea level rise 12:18, 29 Mar 2005 より、地質時代の部分を抜粋・翻訳・再編集・加筆。

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