湖上の美人

ロッシーニの歌劇『湖上の美人』

『湖上の美人』（La donna del lago）は、ジョアキーノ・ロッシーニが1819年に作曲したオペラ・セリアです。ウォルター・スコットの叙事詩『湖上の美人（The Lady of the Lake）』を原作とし、アンドレア・レオーネ・トットラが台本を手がけました。初演は1819年10月24日、ナポリのサン・カルロ劇場で行われました。

作曲の経緯

ロッシーニは、サン・カルロ劇場との契約で年に1作の新作を書くことになっていました。しかし、ガスパーレ・スポンティーニがプロイセン王と無断で契約を結んだため、劇場はロッシーニに急遽新作を依頼しました。こうして、約3ヶ月の作曲期間を経て『湖上の美人』が誕生しました。

作品の特徴

この作品は、序曲を廃止し、導入部から始まるという構成が特徴です。これは、ロッシーニが観客を歌劇本体に集中させるための改革でした。また、アンガス伯ダグラスのアリア以外はすべて書き下ろされています。

『湖上の美人』は、ロッシーニのオペラの中でも特にロマンティックな作風を持つ作品として知られています。その理由として、原作が騎士道物語であることや、第1幕のフィナーレでフル・オーケストラ、混声合唱、二重のバンダを駆使した壮大な音楽が展開されることが挙げられます。また、ナポリ時代のオペラでは初めて、コントラルトを男装させて登場させている点も注目されます。

1983年には、ペーザロ・ロッシーニ音楽祭でマウリツィオ・ポリーニ指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団の演奏により復活上演されました。

編成

ウベルト（ジャコモ5世、スコットランド王）：テノール
アンガス伯ダグラス（エレナの父親）：バス
ロドリーゴ・ディ・ドゥ（反乱軍の首領）：テノール
エレナ（ダグラスの娘）：ソプラノ
マルコム・グレーム（反乱軍の将校）：メゾソプラノ
アルビーナ：メゾソプラノ
セラーノ：テノール
ベルトラム：テノール

管弦楽

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、大太鼓、シンバル、トライアングル、ハープ、弦五部、ホルン6（舞台上）、混声合唱、舞台上のバンダ（軍楽隊）

あらすじ

舞台は16世紀初めのスコットランド。カトリン湖のほとりで、羊飼いの合唱が響き渡ります。エレナは愛するマルコムを思いながら小舟に乗り、湖畔に降り立ちます。そこに、ウベルトと名乗る狩人が現れ、山小屋への案内を求めます。ウベルトは、エレナが反逆者ダグラスの娘であることを知り驚きます。一方、マルコムはエレナへの愛を歌い、ダグラスは娘に反乱軍の首領ロドリーゴとの結婚を求めます。マルコムとエレナは互いの愛を確かめ合い、結婚を誓います。

ハイランダーたちが戦地へ赴く中、ロドリーゴは兵士たちを鼓舞します。マルコムはエレナとロドリーゴの結婚を知り、絶望します。戦士たちは戦いへ向かい、激しいストレッタが繰り広げられます。

第2幕では、ウベルトに扮したジャコモ5世がエレナへの思いを歌います。エレナはウベルトを友情と願いますが、ロドリーゴは二人の様子に嫉妬します。国王軍とハイランダーたちの激闘の中、マルコムはエレナを探しますが、彼女の姿はありません。ダグラスが行方不明になり、ロドリーゴが打ち倒されたことを知ったマルコムは嘆き悲しみます。

ジャコモ5世の宮殿では、囚われの身となったダグラスが許しを請います。エレナは王の指輪を持ち、ジャコモ5世に助けを求めます。ジャコモ5世は正体を明かし、ダグラスの罪を許し、マルコムにも恩赦を与え、エレナとの結婚を許します。エレナは感謝のアリアを捧げ、幕が閉じます。

主要曲

導入部「暁の使者は」
マルコムのアリア「エレナ君を呼ぶ」
フィナーレの合唱曲「星よきたれ」
ウベルトのアリア「おお甘き炎よ」
マルコムのアリア「ああ死なせてくれ」
エレナのアリア・フィナーレ「胸の思いは満ち溢れ」

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