湘南神奈交バス

湘南神奈交バス



湘南神奈交バス株式会社（しょうなんかなこうバス）は、かつて神奈川県秦野市に本社を置き、主に秦野市や平塚市周辺で路線バスおよび貸切バス事業を展開していた事業者です。神奈川中央交通株式会社（神奈中）の地域子会社「神奈交バス」の一つとして、1995年にグループ内で最初に設立されました。会社のコーポレートカラーは視認性の高い黄色で、自社車両には営業所記号として「か」の文字が記されていました。

2017年1月1日、親会社である神奈川中央交通グループのバス事業体制見直しに伴い、存続会社となった津久井神奈交バスに吸収合併される形で会社としては消滅し、同日付けで神奈川中央交通西株式会社に社名が変更されました。これにより、湘南神奈交バスが運行していた独自の路線や神奈中本体からの受託路線は、全て神奈川中央交通西の管轄路線となりました。

設立経緯と事業の特徴



湘南神奈交バスは設立当初、同じ小田急グループに属する箱根登山鉄道（現在の箱根登山バス）が運行していた秦野地区のバス路線を神奈川中央交通へ移管する際の受け皿となることを主な目的としていました。この背景から、他の神奈交バス各社とは異なり、自社で独自の路線網を保有していたという点が大きな特徴です。また、設立当初は複数の営業所が存在しましたが、後に地域ごとの分社化を経て秦野と平塚の2営業所体制となりました。

基本的な事業運営としては、神奈川中央交通本体が収益確保の難しいと判断した路線の運行を引き継ぐ形で営業活動を行い、本体の路線の運行管理業務を受託することも重要な事業の一つでした。さらに、2016年8月16日からは、神奈川中央交通が運行していた空港連絡バス、都市間高速バス、および深夜急行バスの一部路線の運行も移管を受けました。

ユニークな試み：バス車内売店



湘南神奈交バスの特に注目すべき取り組みとして、営業開始当初から導入されていた「バス車内売店」が挙げられます。これは、バスの前扉すぐ後方のデッドスペースを活用して売店スペースを設け、車内での商品販売を行うという当時としては斬新な試みでした。利用方法は、乗客が自ら棚から商品を選び、運転手に代金を支払うという方式で、そのユニークさからメディアにもたびたび取り上げられました。バスに乗車しない地域住民でも、バス停留所で停車中に売店のみを利用することが可能でした。

販売品目は非常に多岐にわたり、雨傘や菓子、パンといった食品のほか、使い捨てカメラ、さらには米まで取り扱っていました。米の販売については、2004年まで食糧管理制度の対象であったため、都道府県知事への登録が必要でした。これに対応するため、同社は車内売店設備を神奈中グループのスーパーマーケット「神奈中ストア」（2007年事業撤退）の店舗扱いとし、実際に車両ごとに米穀小売販売業者の店舗として神奈川県知事へ登録を行い、登録証を車内に掲示するという異例の措置を講じていました。

このバス車内売店は、収益性の低い路線の増収策として、その後ほとんどの神奈交バス各社で採用される施策となりました。しかし、様々な事情から、2008年3月31日をもって傘や乗車券類など一部の商品を除き、車内での物品販売は終了しました。

主な沿革



湘南神奈交バスの設立から終焉に至る主な出来事は以下の通りです。


営業所と路線



会社再編前の湘南神奈交バスは、神奈川県秦野市に本社を置き、秦野営業所と平塚営業所を運営していました。これら営業所は、神奈川中央交通の伊勢原営業所が管轄する秦野操車所、平塚操車所と同一敷地内に位置していました。秦野営業所が管轄する自社運行路線には、再編前の系統番号に「神」という頭文字（かなこうと読む）が付けられていました。

運行路線の大部分は、神奈川中央交通からの運行受託によるものでしたが、前述のように独自の路線も保有していました。秦野営業所は、秦野駅や渋沢駅発着の路線、および二宮町コミュニティバスなどを担当。平塚営業所は、平塚駅南口発着路線や一部の神奈中受託路線に加え、移管された高速バス路線なども担当しました。

廃止・撤退路線



収益性の悪化などを理由に運行を終了した路線も複数存在します。秦野地区の神02、神03、神04、神05、神06、神08、神09といった系統は、平均乗車密度が低いことを理由に、2002年から2011年にかけて順次廃止されました。

また、複数の高速バス路線についても、他社への移管や路線廃止により撤退しています。

高速バスの移管: 2008年には、「やまと号」（奈良交通と共同運行）、「ハーバーライト大阪号」、「ハーバーライト京都号」（西日本ジェイアールバスと共同運行）といった高速バス路線が、横浜神奈交バスへ移管されました。これらの路線は後に運行主体や運行形態が変更されています。
茅ヶ崎・辻堂・藤沢・戸塚～成田空港線: 2016年9月30日まで運行後、成田空港交通の単独運行となりました。
* 本厚木・町田・横浜 - 盛岡線: 岩手県交通との共同運行路線で、夜行便として運行されていました。この路線はもともと神奈中本体が運行していましたが、2003年4月1日に湘南神奈交バスに移管されました。しかし、2005年11月30日をもって同社は運行から撤退し、岩手県交通の単独運行となりました（神奈中本体は予約・発券業務のみ受託を継続）。その後、この路線自体も2016年3月31日に廃止されています。この路線には、独立3列シートを備えたスーパーハイデッカー車両が使用されていました。

車両



設立当初、湘南神奈交バスが保有する車両は、神奈川中央交通本体から転属した三菱ふそう・エアロミディMK（中型車）が6台のみでした。その後、路線の特性や需要に応じて、小型車や大型車の転属、さらには新車の直接投入も行われるようになりました。

平塚営業所の路線バス車両は、2015年3月までに中型車が全廃され、大型車が中心となりました。また、同営業所には神奈中本体から移籍した契約貸切車両も配置されていました。秦野営業所では、狭い道路を通る路線が多いため、車幅が比較的狭い日野・レインボーRB（既に除籍）や三菱エアロミディMEといった小型車両も導入されました。二宮町コミュニティバスでは、専用車両として三菱ふそう・エアロミディMKツーステップが使用され、後にラッピングが施されましたが、神奈川中央交通西への承継後、老朽化により代替されています。

湘南神奈交バスは、箱根登山鉄道からの路線移管や不採算路線の運営、そして先進的な車内売店など、地域の子会社として多角的な取り組みを展開しましたが、2017年のグループ再編によりその歴史に幕を閉じました。事業は神奈川中央交通西に引き継がれ、現在も秦野・平塚地域における重要な公共交通機関としての役割を担っています。

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