湯の峰温泉

湯の峰温泉は、和歌山県田辺市本宮町に位置する歴史ある温泉地です。紀伊山地の霊場と参詣道の一部として世界遺産にも登録されており、その歴史は4世紀にまで遡ります。熊野詣の参拝客にとって、湯垢離（ゆごり）と休息の場として古くから重要な役割を果たしてきました。

地理

湯の峰温泉は、熊野三山の一つである熊野本宮大社へと続く熊野参詣道、中辺路沿いに位置しています。この地は、参拝者が身を清める湯垢離の場として古くから利用されてきました。中辺路から湯の峰温泉に至る区間は「赤木越」、温泉から熊野本宮大社を結ぶ峠道は「大日越」と呼ばれています。

概要

湯の峰温泉は、川湯温泉、渡瀬温泉とともに熊野本宮温泉郷を構成する温泉の一つです。四村川の谷沿いに旅館が立ち並び、温泉街を形成しています。約1800年の歴史を持つとされ、「つぼ湯」は日本最古の共同浴場とも言われています。

源泉と泉質

湯の峰温泉の源泉は、湯の峰川の河床付近に複数存在します。川底からは温泉が湧き出し、気泡が見られます。「つぼ湯」の脇では、砂岩の亀裂からも温泉が湧き出しています。泉質は塩化物・炭酸水素塩・ナトリウムを主成分とする含硫黄の炭酸水素塩泉で、湧出温度は92.5℃、湧出量は全体で885ℓ/分です。神経痛、リウマチ性疾患、皮膚病、糖尿病などに効能があるとされています。

温泉施設

温泉街の中心には公衆浴場と「つぼ湯」があります。「つぼ湯」は、一日に七回も湯の色が変わると言われ、世界遺産にも登録されています。公衆浴場には、一般湯、くすり湯、貸切湯、休憩場、温泉くみとり場などがあります。温泉くみとり場では、温泉水を持ち帰ることができます。また、公衆浴場前の川沿いには「湯筒」があり、観光客はここで卵や野菜を茹でることができます。

熱源

かつて、この温泉の熱源は熊野カルデラの残熱と考えられていましたが、近年の研究では、熱水貯蔵層に過ぎないとされています。現在は、南海トラフから沈み込むフィリピン海プレートのスラブから脱水した高温流体が熱源であるという説が有力です。

伝説と遺構

湯の峰温泉は、中世の説経節「小栗判官」に登場する地としても知られています。餓鬼阿弥となった小栗判官が、この温泉で湯治をして蘇生したという伝説があります。温泉周辺には、「車塚」、「力石」、「不蒔の稲」など、伝説にまつわる遺構が残っています。

ユノミネシダ

この地は、1887年にユノミネシダが日本で初めて発見された場所でもあります。ユノミネシダは、温泉街の公衆浴場の裏手に生育しており、国の天然記念物に指定されています。

歴史

湯の峰温泉は、4世紀ごろに熊野国造の大阿刀足尼によって発見されたと伝えられています。その後、歴代の上皇の熊野御幸によって、その名が全国に知れ渡りました。古くから熊野詣の旅人たちは、ここで湯垢離を行い、旅の疲れを癒しました。時宗の開祖である一遍上人が経文を爪で刻んだとされる「一遍上人名号碑」も残っています。

東光寺

温泉の中心部には天台宗の東光寺があります。東光寺の本尊は、湯の峰温泉の源泉から湧き出る湯の花が薬師如来の形になったものとされ、この本尊の胸から温泉が噴出していたことから、「湯の胸温泉」と呼ばれていたものが、「湯の峰温泉」に転じたとされています。

中世の記録

平安時代後期の公卿・藤原宗忠の日記『中右記』や、鎌倉時代前期の公卿・広橋頼資日記『頼資卿記』にも湯の峰温泉に関する記述が見られます。これらの記録は、中世の貴族たちが熊野詣の際にこの地を訪れていたことを示しています。

近世以降

近世には、西国三十三所の隆盛とともに、潔斎の場としての意義は薄れ、湯治場としての性格が強くなりました。江戸時代の温泉番付では、「本宮の湯」として名を連ねています。また、温泉街には、湯峯薬師をまつる東光寺や、熊野九十九王子の一つである湯の峰王子が残っています。

国民保養[[温泉地]]と世界遺産

1957年（昭和32年）には、川湯温泉、渡瀬温泉とともに国民保養[[温泉地]]に指定され、2004年（平成16年）には世界遺産にも登録されました。

温泉街

温泉街の中心には「つぼ湯」、公衆浴場、湯筒があり、細い川沿いに13軒（2019年現在）の旅館が点在しています。

行事

毎年1月8日には、温泉の繁栄と参拝者の諸願成就を祈願する「湯の峰八日薬師祭」が開催されます。また、9月または10月には、川湯・渡瀬両温泉と共同で、熊野本宮大社に湯を供える献湯祭が行われます。

文化財

つぼ湯: 史跡「熊野参詣道」の一部として、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」にも登録されています。
磨崖名号碑（伝一遍上人名号石）: 和歌山県指定史跡であり、一遍上人の瓜書遺跡とする伝承がありますが、断定はされていません。

交通

紀勢本線新宮駅より熊野御坊南海バスまたは奈良交通八木新宮特急バスで約60分
近鉄大和八木駅より奈良交通八木新宮特急バスで約5時間20分

湯の峰温泉