源氏物語大成

『源氏物語大成』：近代源氏物語研究の金字塔

『源氏物語大成』は、池田亀鑑が中心となって編纂した、源氏物語研究史上に燦然と輝く金字塔です。単なる注釈書ではなく、本文の校訂から索引、関連資料、図録までを網羅した、総合的な研究書と言えるでしょう。その内容は、後の源氏物語研究に計り知れない影響を与え、「近代の源氏物語研究における金字塔」と評される所以です。

壮大なプロジェクトの始まりと変遷

この大事業は、芳賀矢一の記念事業として1922年に発案されました。当初は、既存の注釈書を元に2～3冊程度の注釈書を編纂する予定でしたが、池田亀鑑の緻密な調査によって、源氏物語の写本には様々な系統と差異があることが判明。単純な注釈書では不十分だと判断した池田は、計画を変更し、まず写本間の差異を明らかにする学術的な校本を作成することを提案しました。

この計画変更には、芳賀矢一自身も賛同。しかし、作業は当初の予想をはるかに超え、長期に渡るものとなりました。資金不足に陥ることもありましたが、学士院や篤志家からの援助、さらには池田自身の両親が所有していた土地の売却など、多大な犠牲を払って研究は続けられました。写本の収集においては、池田は多くの資産家から協力を得て、貴重な写本を入手していきました。

河内本から大島本へ：底本の変遷

当初、池田は河内本系統の写本を底本として校本作成を進めました。しかし、研究の進展と共に青表紙本系統の優位性が明らかになり、特に大島本が発見されたことを受け、池田は完成間近だった河内本系統の校本を破棄。大島本を底本とした校本作成をゼロから開始しました。この作業は、西洋の正文批判の手法を積極的に取り入れながら進められ、約10年の歳月を費やしました。

写本の調査は、現代のような容易なものではありませんでした。多くの写本は個人や名家によって所蔵されており、調査を拒否されたり、厳しい制限を課せられたりすることも少なくありませんでした。中には、調査を途中で中断せざるを得なかったケースもありました。それでも池田は、約50万枚にも及ぶ写真の撮影を行い、膨大なデータを集めました。

『校異源氏物語』から『源氏物語大成』へ

1942年、ついに『校異源氏物語』全5巻が中央公論社から刊行されました。しかし、池田の目標はこれだけでは済まされませんでした。戦後、池田は新たに研究者たちを迎え、索引、解説、資料、図録などを加え、『源氏物語大成』全8巻へと発展させました。これは、1953年から1956年にかけて刊行されました。

各編の内容

校異編: 源氏物語研究史上初の学術的な校本。大島本を底本としつつ、多くの写本を校合。しかし、簡明を旨とした方針から、多くの校異が省略されています。
索引編: 校異編本文の一般語彙、助詞・助動詞、項目一覧を網羅した、当時としては類を見ない大規模な索引。
研究資料編: 源氏物語の古注や関連資料を収集、厳選して収録。普及版では「研究編」と「資料編」に分割。
図録編: 源氏物語絵巻を中心に、多くの絵図を収録。

『源氏物語大成』の評価とその後

『源氏物語大成』は、その完成度の高さから、一時、源氏物語の本文研究は終わったかのように見られることもありました。しかし、後にその精度や範囲について、批判的な見解も出されました。それでも、21世紀現在においても、多くの研究者によって参照され続けており、その重要性は揺るぎないものです。

桃園文庫：池田亀鑑コレクション

『源氏物語大成』の編纂にあたり、池田は多くの写本を収集しました。それらは「桃園文庫」と呼ばれ、後に東海大学に寄贈され、現在も貴重な資料として保存・研究されています。

終わりに

『源氏物語大成』は、池田亀鑑の生涯をかけた研究の結晶であり、近代源氏物語研究の基礎を築いた重要な文献です。その功績は、後世の研究者たちに引き継がれ、今後も源氏物語研究を支え続けるでしょう。

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