滝野川区

滝野川区:東京の消えた区の歴史



概要

滝野川区は、1932年昭和7年)から1947年昭和22年)まで存在した東京都の区です。現在の北区南部に位置し、35区時代の東京市に属していました。本記事では、滝野川区の成立過程、地理的特徴、歴史、経済、文化、交通、そして著名な出身者などについて詳細に解説します。さらに、前身である滝野川町、滝野川村、そして室町時代以前のこの地域を指す「平塚郷」についても触れます。


地理

滝野川区は、武蔵野台地と荒川沿岸の低地が接する地域に位置し、起伏に富んだ地形が特徴です。現在の北区では、上中里、栄町、昭和町、滝野川、田端、田端新町、中里、西ヶ原、東田端の地域の大部分を占めていました。御殿山や飛鳥山といった山、石神井川、石神井用水(音無川)、千川上水、逆川、源五郎淵といった河川が区内を流れていました。


歴史

この地域には、旧石器時代もしくは縄文時代から人が定住していたとされ、西ヶ原二丁目貝塚や中里貝塚といった遺跡からもそれが裏付けられます。弥生時代には西ヶ原遺跡が存在し、国内の弥生時代研究に大きな影響を与えました。

奈良時代には「武蔵国豊島郡荒墓郷」と呼ばれ、条里制による区画整理が行われていたと考えられています。上中里や中里といった地名も、この条里制に由来すると推測されています。平安時代後期には「平塚郷」と呼ばれるようになり、豊島氏の支配下に入りました。豊島氏の本城である平塚城は、この地域に存在していました。

『平塚明神并別当城官寺縁起絵巻』によると、源義家三兄弟が後三年の役の後、平塚城に立ち寄り、豊島近義からもてなされたとされています。義家は鎧と十一面観音像を近義に与え、近義は鎧を埋めて甲冑塚とし、義家の死後には三兄弟の像を祀る平塚明神(現在の平塚神社)を建立したと伝えられています。『源平盛衰記』には、1180年治承4年)に源頼朝が滝野川の「松橋」に陣を張ったという記述もあります。

豊島氏はその後も勢力を拡大し、豊島郡の中心地として発展しました。平塚郷は、やがて滝野川村、平塚本郷、中里村、田端村、西ヶ原村へと分立していきました。滝野川という地名は、石神井川の滝のような速い流れに由来すると言われています。豊島氏流の滝野川氏によって支配され、滝野川城が築かれました。西ヶ原城や飛鳥山城も存在したとされています。

江戸時代には岩淵領に属し、鷹狩場としても利用されました。西ヶ原村には、ウサギを飼育する御用屋敷が設けられていました。飛鳥山が観光地化されたことで、一時的に賑わいを見せました。

明治維新後、滝野川村、上中里村、中里村、田端村、西ヶ原村は東京府に属しました。1889年明治22年)の町村制施行により、これらの村は合併して新たな滝野川村が成立しました。1913年大正2年)には町制を施行し、滝野川町となりました。

1932年昭和7年)の東京市編入に伴い、滝野川町は単独で滝野川区となりました。面積は当時成立した20区の中で最小でした。1947年昭和22年)の区の再編により、王子区と合併して北区となりました。


経済

滝野川区は農業が盛んで、滝野川葱、滝野川牛蒡、滝野川人参などの農産物が有名でした。しかし、徐々に住宅地化が進みました。西ヶ原御用屋敷跡地には、政府の養蚕研究施設や検疫調査場などが建設されました。飛鳥山には、大蔵省造幣局滝野川印刷工場が置かれていました。


文化

滝野川区には、多くの神社仏閣、史跡が存在しました。平塚城跡、滝野川城跡、飛鳥山城跡、西ヶ原城跡、鎌倉街道跡、西ヶ原一里塚跡などがその代表例です。また、西ヶ原遺跡は考古学的に重要な遺跡でした。


教育

区内には、東京高等蚕糸学校、扶桑女子商業学校、聖学院中学校などの学校がありました。また、多くの尋常小学校が設置されていました。


交通

鉄道は、日本鉄道(現在のJR東日本)の東北本線と山手線が通っていました。また、王子電気軌道電車(現在の都電荒川線)も運行していました。道路は、岩槻街道、飛鳥山前道、飛鳥道、王子板橋間道(王子新道)などがありました。


著名な出身者

滝野川区からは、芥川比呂志芥川也寸志安部公房小池清五社英雄児玉清、中平康、麻生美代子倍賞千恵子、古舘伊知郎、やなせたかし山田申吾、渡辺護、村松健など、多くの著名人が輩出しました。


その他

滝野川区史は、1944年昭和19年)に刊行が予定されていましたが、戦時中の事情により刊行されませんでした。ゲラの複製は、北区立中央図書館で閲覧可能です。


参考文献

北豊島郡誌(編:北豊島郡農会、1918年大正7年)11月10日発行、1979年昭和54年)9月25日復刻版発行)
板橋区史 通史編 下巻(編:板橋区史編さん調査会、1999年(平成11年)11月30日発行)


関連項目

東京都の廃止市町村一覧

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