澤山勇三郞

澤山 勇三郎

澤山 勇三郎（さわやま ゆうざぶろう、1860年7月17日 - 1936年10月23日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した日本の数学者であり、陸軍の教育機関で教授を務めた人物です。特に、幾何学分野における功績で知られ、「澤山-テボーの定理」に名を残すほか、フォイエルバッハの定理に対して20種類を超える独創的な証明方法を示したことでも高く評価されています。

生涯

勇三郎は、万延元年（1860年）に長州藩厚狭郡二俣瀬村（現在の山口県宇部市）で、酒造業を営んでいた武安治平の五男として誕生しました。本来であれば家業を継ぐ立場でしたが、学問への強い熱意から、16歳を迎えた年に山口県内の私塾「鴻城学舎」の門を叩き、そこで英語と数学を精力的に学び始めます。当時の山口県では、質の高い英語教育を受ける機会が限られていましたが、彼は偶然にもハワイでの滞在経験があり、地元の刑務所に収監されていた人物から英語を学ぶという異色のエピソードが残されています。この時の学びが、その後の彼のキャリア形成において重要な基盤となりました。

学舎での勉学を終えた後、24歳で萩中学校の準助教諭として教育者としての第一歩を踏み出します。その後、29歳で数学の中等教員免許を取得し、専門分野での教育に従事する資格を得ました。数学の才能は早くから認められており、特に数学者の谷田部梅吉からはその能力を高く評価され、これを機に30歳で上京します。上京後は、東京物理学校（現在の東京理科大学）で講師を務め、群馬県尋常中学校の教諭を経て、教育者としての経験を積み重ねました。

36歳になった明治29年（1896年）には、澤山家の婿養子となり、澤山ツナ子氏と結婚します。その後、東京府城北中学校で教鞭をとった後、明治34年（1901年）8月23日には陸軍教授に任官し、陸軍中央幼年学校に配属されました。さらに、陸軍士官学校予科でも教壇に立ち、将来の軍を担う若者たちの教育に携わりました。陸軍教授としては大正12年（1923年）12月28日まで務め、依願により退官しています。

陸軍を退いた後も、教育への情熱は衰えることなく、中央気象台付属の測候技術官養成所で嘱託講師として指導にあたりました。また、かつて講師を務めた東京物理学校では、76歳を迎えるまで長期にわたり教職に就き続け、多くの後進を育成しました。昭和11年（1936年）10月23日、77歳でその生涯を終えました。

業績と人物像

澤山勇三郎の数学者としての最大の功績は、幾何学の分野、特に三角形に関する定理の研究にあります。彼は自身が発見した「澤山-テボーの定理」（円に内接する六角形に関するもの）に名を残すだけでなく、フォイエルバッハの定理（九点円が内接・外接する内接円・傍接円に関するもの）のような古典的な定理に対しても、多角的かつ独創的な20を超える証明方法を提示しました。これは、彼がいかに深く幾何学を探求していたかを示すものです。

彼の性格は、非常に清らかで欲がなく、世俗的な名誉や財産にはほとんど関心を示しませんでした。ただひたすらに学問の研究に没頭し、それ以外の事柄には興味を持たなかったため、生涯を通じて簡素で貧しい生活に甘んじました。しかし、学究的な探求心が満たされることによって得られる精神的な充足感は大きく、その風貌には常に明るさがあり、苦悩や陰りが見られることはなかったと伝えられています。まさに「無欲恬淡」という言葉がふさわしい人物でした。

栄典と著作

教育者、数学者としての貢献に対し、国からは多くの栄典が授与されました。明治34年（1901年）の正八位から始まり、陸軍教授時代には勲六等瑞宝章、従七位、正七位、勲五等瑞宝章、従六位、正六位、勲四等瑞宝章と昇進し、退官間際には従五位、最終的には正五位勲四等に叙されました。これらの栄典は、彼が国家に尽くした功績が認められた証です。

著作としては、森本清吾氏との共著で『初等幾何学』（1931年）を出版しています。また、彼の没後には、森本清吾氏によって編纂された『沢山勇三郎全集』（1938年、岩波書店）が刊行され、彼の数学研究の成果が後世に伝えられることとなりました。この全集は、彼の幾何学への深い洞察と多岐にわたる業績を知る上で貴重な資料となっています。

澤山勇三郎は、清貧の中で学問に専念し、幾何学研究と教育に多大な貢献をした、日本の知られざる偉大な数学者の一人と言えるでしょう。

もう一度検索