熊野雄七

熊野 雄七（くまの ゆうしち）は、嘉永5年（1852年）に生を受け、大正10年（1921年）に逝去した、明治期を代表する教育者の一人です。大村藩士の子として生まれた彼は、幕末から明治にかけての激動期に、武士から教育者、そしてキリスト教徒へとその歩みを進めました。横浜バンドの一員として、また明治学院大学の設立に深く関わった人物として知られています。

若き日々から学び舎へ

嘉永5年（1852年）2月15日、熊野雄七は大村藩士熊野与の子として誕生しました。故郷の藩校である五教館で幼少期から教育を受け、学問に励みます。慶応4年（1868年）には、大村藩士として戊辰戦争に従軍し、会津の地で戦いを経験しました。

戦乱が収まった後、藩命により上京。安井息軒の私塾で学問を修めた後、英学を志して慶應義塾へと進みました。明治4年（1871年）、横浜に拠点を移し、女性宣教師ルイーズ・H・ピアソンが開設した「ピアソン学校」で英語の研鑽を積みます。また、日本の女子教育のために宣教師を招いたジェームス・ハミルトン・バラからバラ塾で聖書を、サミュエル・ロビンス・ブラウンからはブラウン塾で英語と神学を学ぶなど、複数の宣教師から強い影響を受けました。

キリスト教との出会いと教育活動

バラ師との出会いは、熊野雄七の生涯における大きな転機となりました。明治5年（1872年）、バラ師より洗礼を受け、日本の初期プロテスタント教会である横浜海岸教会のメンバー、いわゆる「横浜バンド」の一員となります。バラ師が設立・運営していた女子のための寄宿学校「アメリカン・ミッション・ホーム」に教員として迎えられ、教育者としての第一歩を踏み出しました。

この学校は明治8年（1875年）に共立女学校と改称されますが、その名付け親は熊野雄七であったと伝えられています。彼は学校運営にも深く関与し、明治11年（1878年）には共立女学校の幹事として、女子教育の発展に尽力しました。

明治学院の設立と貢献

教育活動と並行して、熊野雄七は日本のキリスト教会全体の発展にも貢献します。明治16年（1883年）5月に東京・新栄教会で開催された第三回全国基督教信徒大親睦会には、幹部として参加し、全国の信徒間の連携強化に努めました。

そして、彼の生涯における最も重要な業績の一つが、明治19年（1886年）の明治学院創設への貢献です。旧バラ学校、ブラウン塾、ヘボン塾などを統合して設立されたこの教育機関において、熊野雄七は創設時の7名の理事の一人として名を連ねました。彼は、2代目総理である井深梶之助を補佐しながら、明治学院の教授を務めるとともに、学校の運営にも深く関与し、その基盤確立に尽力しました。明治26年（1893年）に明治学院を退職するまで、日本の高等教育、特にキリスト教主義教育の発展に多大な貢献を果たしたのです。

熊野雄七は、教育者、キリスト教徒として、激動の明治時代を生き抜き、日本の近代教育史、特に女子教育やキリスト教学校の発展に重要な足跡を残しました。大正10年（1921年）1月10日、彼はその波乱に満ちた生涯を閉じました。彼の功績は、今日の明治学院大学をはじめとする多くの教育機関に受け継がれています。

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