孔祥熙

孔祥熙（こう しょうき）

孔祥熙（1880年9月11日 - 1967年8月16日）は、中華民国の財政家、実業家。字は庸之、号は子淵。山西省太原府太谷県（現在の晋中市太谷区）出身。

彼は宋慶齢・宋美齢姉妹の長姉である宋靄齢を妻に持ち、宋子文（宋靄齢の弟）や蔣介石（宋美齢の夫）と姻戚関係で結ばれていました。陳果夫を加えた彼ら4人は、当時の中国で大きな影響力を持った「四大家族」と称されました。

孔祥熙は国民政府の財政部門で長期間にわたり要職を担いましたが、宋家との繋がりを通じて形成された利権集団、いわゆる「孔宋集団」は、腐敗や私利私欲の追求の代名詞と見なされることも少なくありませんでした。国共内戦末期には、国民党やその関係者を、民衆から財産を「刮（か）き集める」存在として「刮民党」と揶揄する風潮が広まりましたが、これは孔祥熙らのイメージと結びついていたと言われています。

生い立ちと教育

1880年に生まれた孔祥熙は、貢生であった父・孔繁慈から幼少期に教えを受けました。1889年、おたふく風邪にかかった際、西洋医学による治療を受けたことがきっかけで会衆派教会と関わりを持ちます。翌年には教会の設立した華美小学に入学し、1894年に卒業。さらに通州の潞河書院に進み、ここで洗礼を受けキリスト教徒となりました。

1900年の義和団の乱では、一時帰郷していた山西省でも教会関係者が殺害される事態に直面しましたが、同郷人の助けで難を逃れました。乱の鎮圧後、教会や信徒の復興活動に貢献した功績が認められ、教会の支援を受けてアメリカへ留学。オハイオ州のオベリン大学を経て、イェール大学で鉱物学を学び、1907年に修士号を取得しました。帰国後、地元に銘賢学堂を設立。自身が小中学校の校長を務め、宣教師も教壇に立つなど、教育事業に尽力しました。

実業家、そして政界へ

1911年に辛亥革命が勃発すると、孔祥熙は太谷の商業者や銘賢学堂の学生たちをまとめ、地域の秩序維持組織を立ち上げました。後に山西中路民軍総司令に推挙されましたが、南北和議成立後に辞任。教育事業と並行してビジネスにも取り組み、1912年にはイギリスのアジアシェル石油の山西省における独占販売権を獲得し、石油事業で巨額の富を築きました。

1913年、孔祥熙は日本に招かれ、中華留日キリスト教青年会の総幹事に就任。東京滞在中、孫文の中華革命党の資金調達や文書処理をサポートしました。この時、孫文の英語秘書を務めていた宋靄齢と知り合い、1914年に日本で結婚。翌年には夫婦で山西に戻り、教育とビジネスを再開しました。その後、山西の実力者である閻錫山に参謀として登用されます。1923年には中ロ交渉の駐奉天代表となり、孫文に代わって北方の軍閥と連絡を取る役割を担いました。1925年3月に孫文が北京で死去した際には、遺言の証人の一人となっています。1926年、銘賢学堂に大学部を設置するための募金活動のため再び渡米し、オベリン大学から名誉博士号を受けました。

本格的に政界に進出したのは1926年、国民政府の広東省財政庁長に就任してからです。1927年の蔣介石による上海クーデターでは、上海で各勢力を蔣介石陣営に引き込む調整役として貢献しました。南京国民政府では1928年に工商部長、1930年に実業部長を歴任。1931年の満州事変後、蔣介石が国民政府主席を辞任した際には、自身も一時職を辞しました。1932年には欧米を視察し、密かにドイツやイタリアを訪れて武器購入の交渉を行いました。1933年4月の帰国後、中央銀行総裁に就任。同年10月に宋子文が財政部長を辞任すると、後任として財政部長と行政院副院長を兼務し、財政部長の座は1944年まで務めました。

財政政策とその評価

孔祥熙の財政部長在任初期には、税制改革を実施し、地方財政に対する中央の管理を強化するとともに、民衆の負担軽減を図りました。また、銀行システムの再編を進め、増資などを通じて中国銀行や交通銀行を国民政府財政部の統制下に置きました。さらに、それまでの銀本位制を廃止して法幣を発行するという画期的な貨幣制度改革を断行。政府債務の整理も行いました。これらの政策は、国家資本による金融市場の掌握を可能にし、当時の軍事行動やその後の日中戦争遂行に必要な財源を確保するための基盤を築きました。

外交面では、1936年の西安事件勃発時には平和的解決を強く主張しました。また、中独合作の下、ドイツに派遣されアドルフ・ヒトラーと会談するなど、対日関係を巡って揺れ動く中で重要な役割を果たしましたが、ドイツ軍事顧問団は1938年に撤収することになります。

その後、孔祥熙は行政院長も経験しました。しかし、日中戦争が長期化するにつれて、孔祥熙やその家族が公私の権力を利用して投機に走り、私腹を肥やしているという批判が高まりました。この異常な蓄財ぶりはアメリカ人からも注目されるほどでした。1944年、国民参政会で傅斯年が米ドル公債発行における孔祥熙の不正行為を糾弾したことを受け、孔祥熙は財政部長の職を免じられました。さらに1945年には行政院副院長と中央銀行総裁も辞任。1947年には妻・宋靄齢の病気を理由にアメリカへ移住しました。

1948年に中国銀行董事長の職を辞したのが最後の公職となります。1962年以降、台湾に一時滞在することもありましたが、最終的に1967年8月16日、アメリカ・ニューヨークで病のため世を去りました。

人物像と家族

孔祥熙の腐敗体質については、蔣介石の姪孫にあたる蔣孝鎮が、特務機関の責任者である戴笠に対し「委座（蔣介石）の病気は宋美齢だけが治せる。夫人の病気は宋靄齢だけが治せる。しかし孔（孔家の腐敗体質）の病気は誰にも治せない」と語ったとされる逸話が残っています。

孔祥熙は自らを孔子の山西における75代目の子孫であるとし、原籍を山東省曲阜としていましたが、曲阜の孔子世家譜には彼の家系は記載されていません。孔祥熙には二男二女がいました。

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