狩勝峠

狩勝峠：歴史と自然が織りなす北海道の要衝

北海道空知郡南富良野町と上川郡新得町の境界に位置する狩勝峠は、標高644mの峠であり、石狩川水系と十勝川水系の分水嶺として、日本海側と太平洋側を隔てる重要な地理的拠点です。その歴史は古く、江戸時代には十勝街道の一部として利用されてきました。

峠名の由来

狩勝峠の名称は、明治29年（1896年）に北海道鉄道敷設法制定に伴い、鉄道敷設調査を行った田辺朔郎氏が、旧石狩国と旧十勝国の地名から一文字ずつ取って命名したことに由来します。この命名は、鉄道建設という近代化の波が北海道の自然に深く関わっていく始まりを象徴する出来事と言えるでしょう。

鉄道の歴史：狩勝線と数々のドラマ

明治40年（1907年）に十勝線が延伸され、狩勝峠には狩勝信号場が設置されました。落合駅から新得駅間は狩勝峠を越えることから「狩勝線」と呼ばれ、急峻な地形と厳しい気象条件の中を列車が運行されました。特に、狩勝トンネル（延長954m）を抜けた先に広がる十勝平野の雄大な景色は、「日本三大車窓」や「日本新八景」にも選ばれ、多くの旅人を魅了しました。

しかし、狩勝線は急勾配による運行の困難さや、昭和26年（1951年）に発生した「まりも号脱線事件」など、数々の困難を経験しました。これらの経験を踏まえ、昭和41年（1966年）には勾配を緩和した新狩勝トンネルを含む新線が建設され、運行はそちらに移管されました。新線内には上落合信号場が設置され、根室本線と石勝線の分岐点としての役割を担っていましたが、2024年3月をもって根室本線との接続が廃止され、現在では石勝線の区間となっています。

旧狩勝線の一部区間は、昭和54年（1979年）まで、脱線事故や車両火災事故などの実験線として活用されていました。現在では、新内駅跡周辺に旧狩勝線ミュージアムが設立され、歴史を伝える役割を担っています。また、旧狩勝線フットパスとして整備された約17kmの遊歩道は、歴史的な鉄道遺構を巡る魅力的なコースとなっています。

道路の歴史：日高山脈越えの開拓

狩勝峠越えの道路は、日高山脈を越える最初の道路として、江戸時代から十勝街道の一部として存在していました。現在の国道38号のルートは昭和6年（1931年）に開削され、昭和9年（1934年）には「一般国道札幌根室線」に昇格、昭和27年（1952年）には国道38号に指定されました。

道央と道東を結ぶ最短ルートである国道274号（日勝峠）も存在しますが、日勝峠が厳しい気象条件に見舞われることが多いことから、狩勝峠ルートも重要な役割を果たしています。さらに、狩勝峠は「北海道ガーデン街道」の一部にも指定され、観光ルートとしての側面も持っています。

平成19年（2007年）には道東自動車道（道東道）トマムIC-十勝清水IC間が開通し、狩勝第一トンネルが貫通しました。トンネル内の標高626mは、北海道内の高速道路最高地点となっています。平成23年（2011年）には道東道が道央圏まで延伸され、交通の利便性がさらに向上しました。

周辺の観光と自然

狩勝峠周辺には、新得側にサホロリゾートがあり、宿泊施設、ゴルフ場、アクティビティ施設などが集積しています。その他、旧狩勝線ミュージアム、牧場、キャンプ場など、アウトドアを楽しめる施設も充実しています。狩勝峠展望台からは、雄大な十勝平野や周辺の山々を一望できる絶景ポイントとなっています。

狩勝峠は、鉄道と道路の歴史、そして豊かな自然が調和した、北海道を代表する峠と言えるでしょう。

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