王敦の乱

王敦の乱：東晋を揺るがした内乱の真相

王敦の乱（おうとんのらん）は、322年から324年にかけて、中国の東晋王朝を舞台に勃発した大規模な内乱です。この乱は、王朝の安定を揺るがし、その後の東晋の政治に大きな影響を与えました。

乱に至るまでの背景

316年、西晋が匈奴の漢によって滅ぼされると、西晋の皇族であった司馬睿（しばえい）は、江南に勢力を築き、317年に元帝として即位、東晋を建国しました。しかし、東晋は華北からの亡命政権であり、その基盤は非常に脆弱でした。元帝は、王導（おうどう）やその従兄である王敦（おうとん）といった有力者の力を借りて、政権の安定を図ろうとしました。

当時の江南では、西晋滅亡の混乱に乗じて、各地で反乱が頻発していました。特に、杜曾（とそう）という人物が率いる反乱は勢いを増し、湖南から武昌にかけての一帯を席巻しました。王敦は、陶侃（とうかん）や周訪（しゅうほう）らの協力を得てこの反乱を鎮圧しますが、その過程で軍事力を増大させ、元帝さえも無視できないほどの勢力を持つに至りました。

しかし、元帝は皇帝権力の強化を目指し、劉隗（りゅうかい）や刁協（ちょうきょう）といった側近を重用し、王氏の勢力を牽制しようとしました。王敦が推薦した人物を退けたり、王敦に対抗する姿勢を鮮明にしたため、両者の対立は深刻化していきました。

王敦の乱（第一次）

322年正月、王敦は元帝の政策に不満を募らせ、劉隗や刁協の排除を名目に、武昌から軍を率いて建康に向けて進軍を開始しました。元帝は勅使を送って王敦を説得しようとしましたが、王敦はこれを拒否し、使者を抑留しました。

一方、湘州刺史の譙王司馬承（しょうおうしばしょう）は、王敦の協力要請を拒否し、兵を挙げて王敦軍に対抗しました。元帝は、劉隗を金城に、周札（しゅうさつ）を石頭城に配置して防備を固め、さらに甘卓（かんたく）や陶侃を要職に任命して王敦を牽制しました。

王敦は、劉隗の軍が精鋭であるのに対し、周札の軍が弱兵であることを見抜き、石頭城を攻撃しました。周札はあっけなく降伏し、城門を開けて王敦を迎え入れました。王敦はここを本陣とし、劉隗や刁協らの軍を破りました。元帝は追い詰められ、「朕は琅邪の地に帰さん」とまで告げる事態となりました。第一次反乱は王敦の勝利に終わりました。

元帝は失意のうちに崩御し、皇太子の司馬紹（しばしょう）が明帝として即位しました。

王敦の乱（第二次）

明帝は即位すると、王敦を警戒し、その勢力を削ぎ落とそうとしました。王敦も明帝の即位に反対し、廃位を画策しましたが、温嶠（おんきょう）の抵抗によって失敗しました。

324年6月、明帝は五胡の侵入を防ぐために派遣していた祖約（そやく）や蘇峻（そしゅん）らの将軍を呼び戻し、建康の防御を固めた上で、王敦討伐の勅命を発しました。第二次反乱の最中、王敦は重病に倒れ、指揮を執ることができなくなりました。王敦軍は温嶠に越城で大敗し、王敦は間もなく病死しました。残された王敦の兄である王含（おうがん）は逃走しましたが、王舒（おうしょ）に殺害され、反乱は鎮圧されました。

乱のその後

反乱鎮圧後、明帝は王敦一派を徹底的に粛清しました。王敦の棺は暴かれ、その遺体は斬られました。こうして、一時的に皇帝権力が確立されましたが、明帝の若死により、その後の東晋は再び混乱の時代を迎えることになります。

明帝の死後、幼い皇帝が即位し、有力な重臣や軍人が皇帝を傀儡にして実権を握るという状況が繰り返されました。明帝没後わずか2年後には蘇峻の乱が勃発し、東晋の安定は長くは続きませんでした。

王敦の乱は、東晋の不安定な政治状況を象徴する出来事であり、その後の王朝の衰退に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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