現美新幹線

現美新幹線（げんびしんかんせん）

現美新幹線は、東日本旅客鉄道（JR東日本）が企画・運行した特別なコンセプトを持つ観光向け新幹線車両です。その名称は「現代美術」の略称に由来し、車両そのものを美術館に見立てた斬新なデザインが特徴でした。主に上越新幹線の越後湯沢駅と新潟駅を結ぶ区間で運行され、「走る美術館」として多くの乗客にユニークな鉄道旅を提供しました。

概要

この新幹線は、アートと旅の融合をテーマに開発されました。外観は、写真家や映画監督として知られる蜷川実花氏がデザインを担当し、黒を基調とした車体に新潟県の夏の風物詩である長岡まつり大花火大会の鮮やかな花火が描かれ、強い印象を与えました。一方、内装はジェイアール東日本建築設計事務所が手がけ、各車両が現代美術の展示空間となるよう設計されました。

車両

現美新幹線として使用された車両は、かつて秋田新幹線などで活躍したE3系0番台（R19編成）を改造したものです。観光列車への転用に伴い、形式がE3系700番台へと変更されました。同様の改造は、山形新幹線で運用された観光列車「とれいゆ つばさ」（R18編成）でも行われています。

6両編成（11号車～16号車）で組成され、改造後は上越新幹線での運用に特化するため、2016年1月5日付で所属車両基地が秋田車両センター（現：秋田総合車両センター南秋田センター）から新潟新幹線車両センターへ変更されています。

車内デザインとアート展示

「走る美術館」のコンセプトのもと、各車両には異なるアーティストによる多様な現代美術作品が展示されていました。

11号車: 松本尚氏の絵画作品が展示され、座席車として運用されました（旧グリーン車座席をリユース）。
12号車: 小牟田悠介氏による平面作品。
13号車: 古武家賢太郎氏の絵画作品。この車両にはカフェコーナーとキッズスペースも設置され、パラモデル氏による絵画・彫刻作品も展示されていました。カフェでは、新潟県内のコーヒー店や菓子店が提供する特製メニューを楽しむことができました。
14号車: 石川直樹氏の写真作品。
15号車: 荒神明香氏の立体作品。
16号車: 映像作品が展示され、時期によりAKI INOMATA氏（2018年3月以降）やブライアン・アルフレッド氏（2016年4月～2018年3月）が担当しました。

運用

現美新幹線は、2016年4月29日に運行を開始しました。主に土休日を中心に、上越新幹線の越後湯沢～新潟間を臨時列車「とき」として1日3往復運行しました。停車駅は越後湯沢、浦佐、長岡、燕三条、新潟で、片道約50分で結びました。座席は11号車のみが指定席で、他の車両は自由席（運行当初は全車旅行商品設定期間もあり）として運用されました。

上越新幹線での定期運行のほか、特定の旅行商品や団体列車として、東北新幹線の区間を走行する機会もありました。

運行終了とその後

車両の老朽化が進んだため、2020年12月19日をもって定期運行を終了しました。翌12月20日には、特別な旅行商品専用のラストラン列車として越後湯沢～新潟間を2往復し、この日をもって約4年8か月にわたる営業運転を終えました。営業運転終了後、現美新幹線の全車両は解体されました。しかし、車両の一部や備品を保存し、越後湯沢駅など沿線の駅でアーカイブ展示が行われるなど、その記憶は今も伝えられています。また、使用されていたソファや座席プレートの一部が一般向けに販売される計画も進められています。

現美新幹線は、「移動手段」としての新幹線に「アート鑑賞」という新しい価値を付加し、多くの乗客に特別な体験を提供した、ユニークな存在でした。

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