甫与志岳

甫与志岳（ほよしだけ）

甫与志岳は、鹿児島県肝付町に位置し、大隅半島南東部にそびえる肝属山地の最高峰です。かつての高山町と内之浦町の境界にまたがっており、標高は1000mを超えます。この山は、北に連なる黒尊岳や国見山と共に「国見の三岳」と称され、地域の人々にとって特別な存在です。

地理

甫与志岳の山頂付近は、高さ20メートル、周囲120メートルにも及ぶ巨大な花崗岩で形成されています。岩の洞には、彦火火出見尊（穂穂手見命）を祀る石祠が鎮座しており、古くからの信仰の対象であったことを物語っています。山頂には一等三角点が設置されており、ここからは太平洋、高隈山、霧島山といった山々だけでなく、遠く鹿児島湾や薩摩半島、さらには屋久島や種子島までをも望むことができる絶景が広がります。

登山ルートは複数存在し、中でも二股川キャンプ場から甫与志林道を経由して南西から山頂を目指すルートが一般的です。その他、黒尊岳を経由して北から縦走するルート、姫門林道を経由して南東から登るルート、二股林道を経由して北西から登るルートなどがあります。山頂付近は鎖場となっているため、注意が必要です。

山肌は、イスノキやアカガシなどの常緑広葉樹に覆われていますが、山頂付近には落葉広葉樹も見られます。また、肝属山地にのみ自生するキモツキミツバツツジやオオスミミツバツツジ、白い花を咲かせるアケボノツツジの群落など、貴重な植物も観察できます。甫与志岳の南西部、荒西山にかけての標高700メートル以上の東南斜面は、「万九郎県自然環境保全地域」に指定されており、豊かな自然が保護されています。

歴史

甫与志岳は、古くから山岳信仰の対象として崇められてきました。この地は、彦火火出見尊と豊玉姫との間に生まれた草葺不合尊を玉依姫が育てた場所とされ、そのことから「母養子山（ぼようしやま）」と呼ばれ、これが山名の由来になったと言われています。また、「保養子岳」や「穂吉岳」と表記されることもあります。

別名として「笹尾岳」とも呼ばれています。これは、草葺不合尊が産まれる際に臍の緒を切った竹が根付き、竹原となったという伝説に由来します。また、玉依姫が草葺不合尊を育てる際、母乳が出ないことに困り、頂上石祠近くの湧水を乳房に垂らしたところ母乳が出るようになったという言い伝えも残っています。北西山腹には「京都の道」と呼ばれる小平地があり、彦火火出見尊や草葺不合尊が通った跡とされています。

古くから、肝付氏や島津氏などの有力者からも信仰を集めてきました。旧暦4月3日には、三岳を登山する風習があり、これは「タケメイ（岳参り）」や「ミタケメイ（三岳参り）」と呼ばれていました。地元の若者たちは、登山の前日に禊ぎを済ませ、当日は早朝から権現山、国見山、黒尊岳、甫与志岳の順に縦走し、帰りにツツジの花を持ち帰って神に供える習慣がありました。また、甫与志岳は縁結びの御利益があるとされ、「国見、黒尊、甫与志の岳に三度参れば妻たもる」と歌われています。

参考文献

内之浦町誌編纂委員会編　『内之浦町誌』　内之浦町長高橋鐵男、2003年
橋口兼古、五代秀堯、橋口兼柄 『三国名勝図会　巻之四十九』 1843年
高山郷土誌編纂委員会編　『高山郷土誌』　高山町長栫博、1966年

関連項目

肝属山地

もう一度検索