三国名勝図会

三国名勝図会について

『三国名勝図会』は、江戸時代後期に薩摩藩によって編纂された、薩摩国（現在の鹿児島県西部）、大隅国（現在の鹿児島県東部）、および日向国（現在の宮崎県）の一部を含む地域を対象とした地誌です。

この図会は、単なる地誌の記録に留まらず、神社仏閣の由緒、建物の配置図や外観の挿絵など、詳細な情報が網羅されています。さらに、各地の名所や風景を描いた挿絵も豊富に収録されており、当時の薩摩藩領内の様子を知るための非常に貴重な資料となっています。

全60巻からなるこの大著は、単に地理的な情報を提供するだけでなく、当時の文化、歴史、信仰、生活様式などを多角的に捉えることができる点が大きな特徴です。これらの情報は、地域研究や歴史研究において、かけがえのない価値を持っています。

編纂の背景

南九州の地誌に関する記録は、古代にまで遡ることができます。和銅6年（713年）や延長3年（925年）には風土記の編纂が指示されたという記録が残っていますが、薩摩国、大隅国、日向国の風土記はいずれも現存していません。

江戸時代に入ると、寛政7年（1795年）に白尾国柱が『麑藩名勝考』を、文化3年（1806年）には本田親孚らが『薩藩名勝志』を編纂しました。これらの地誌編纂の流れを受け、薩摩藩主島津斉興が、橋口兼古、五代秀堯（五代友厚の父）、橋口兼柄らに領内の地誌編纂を命じました。その結果、天保14年（1843年）に完成したのが『三国名勝図会』です。

この編纂事業は、南九州の地誌編纂の歴史の中で重要な位置を占めており、その後の明治4年（1871年）に編纂された『薩隅日地理纂考』へと受け継がれていきます。

出版と復刻

『三国名勝図会』は、島津久光による校正を経て、明治38年（1905年）に和装本全20巻として出版されました。この出版に際しては、当時の元老である松方正義による序文が添えられています。この和装本は、貴重な資料として、現在でも研究者や歴史愛好家によって参照されています。

その後、昭和41年（1966年）には南日本出版文化協会から全3巻（B5判）として出版され、より一般の読者にも手が届きやすくなりました。

さらに、昭和57年（1982年）には、1905年の和装版を底本とした復刻版が洋装本全4巻（B5判）として刊行されました。この復刻版には、原口虎雄（原口泉の父）による「索引編」が別巻として添えられ、より利便性が高められています。

各巻の構成

『三国名勝図会』は全60巻で構成されており、各巻の主な内容は以下の通りです。

1巻：薩隅日総説（日向国、薩摩国、大隅国の成り立ちなど）

薩摩国
2-7巻：鹿児島郡（現在の鹿児島市付近）
8-10巻：日置郡（現在の日置市、いちき串木野市付近）
11-12巻：薩摩郡（現在の薩摩川内市、さつま町付近）
13-14巻：高城郡（現在の薩摩川内市付近）
15-16巻：出水郡（現在の出水市、阿久根市付近）
17-18巻：伊佐郡（現在の伊佐市付近）
19巻：谿山郡（現在の鹿児島市谷山付近）
20巻：給黎郡（現在の鹿児島市喜入、南九州市知覧町付近）
21-22巻：揖宿郡（現在の指宿市付近）
23-24巻：頴娃郡（現在の南九州市頴娃町付近）
25-27巻：河邊郡（現在の南さつま市、枕崎市、南九州市川辺町付近）
28巻：河邊郡（島嶼、現在の三島村及び十島村）
29巻：阿多郡（現在の日置市、南さつま市付近）
30巻：甑島郡（現在の甑島列島）
大隅国
31-32巻：囎唹郡（現在の霧島市付近）
33-36巻：曽於郡（現在の曽於市付近）
37-39巻：姶羅郡（現在の姶良市付近）
40-41巻：桑原郡（現在の霧島市、湧水町付近）
42巻：菱刈郡（現在の伊佐市付近）
43巻：大隅郡（北部、現在の桜島）
44-46巻：大隅郡（南部、現在の垂水市、錦江町、南大隅町付近）
47-49巻：肝属郡（現在の鹿屋市、肝付町付近）
50巻：馭謨郡（現在の屋久島）
51巻：熊毛郡（現在の種子島）
日向国
52-54巻：諸縣郡（西部、現在のえびの市、小林市付近）
55巻：諸縣郡（東部、現在の宮崎市高岡町、綾町付近）
* 56-60巻：諸縣郡（南部、現在の都城市、志布志市、高原町付近）

これらの各巻を通じて、当時の南九州の地理、歴史、文化が詳細に記録されています。

現代における価値

『三国名勝図会』は、単なる過去の記録に留まらず、現代においてもその価値は非常に高いものです。地域研究、歴史研究、民俗学研究など、多岐にわたる分野で貴重な資料として活用されており、過去の南九州を理解するための重要な鍵となっています。

また、掲載されている挿絵は、当時の風景や建物の様子を詳細に伝えており、視覚的に歴史を理解する上でも非常に有益です。この図会を通じて、私たちは過去の生活様式や文化に触れ、現代の私たちのルーツを再認識することができます。

国立国会図書館デジタルコレクションでの公開

明治38年（1905年）に出版された『三国名勝図会』は、日本国立国会図書館デジタルコレクション（旧近代デジタルライブラリー）において公開されており、誰でも閲覧することが可能です。これは、歴史資料へのアクセスを容易にし、より多くの人々が過去の知識に触れる機会を提供しています。

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