田辺祭

田辺祭（たなべまつり）

田辺祭は、和歌山県田辺市で460年以上続く、鬪雞神社の例大祭であり、和歌祭・粉河祭と並ぶ「紀州三大祭」の一つとして知られています。この祭りは、7月24日の宵宮と25日の本祭を中心に、氏子町では7月初旬から事前行事が行われ、地域全体が祭りの熱気に包まれます。

概要

田辺祭は、鬪雞神社から出発する神輿渡御、旧田辺城下八町による笠鉾巡行、そして馬町五ヶ町による流鏑馬の三つの要素が組み合わさっています。特に笠鉾が城下町を練り歩く姿は圧巻で、多くの人々を魅了します。祭りは、神社を中心とした神事、馬町による勇壮な流鏑馬、笠鉾保存会と八町による華やかな笠鉾巡行の三つに大きく分けられます。また、近隣の神社も田辺祭に「勤め」として参加しており、地域全体で祭りを盛り上げます。

例年の日程

宵宮（7月24日）

8:30頃: 各町の笠鉾が本町縦町に集結（一部地域を除く）。
8:45頃: 鬪雞神社から神輿渡御が出発。
9:15頃: 神輿が笠鉾を追い越し、会津橋を渡って江川へ。
10:50頃: 御旅所にて巫女舞が奉納。
13:20頃: 神輿が鬪雞神社へ戻り、笠鉾も巡行を再開。
17:45頃: 各町の笠鉾が鬪雞神社鳥居前に集結。
19:00: 住矢の走り・鳥居前勤め。
21:30頃: 旧会津橋上に全町の笠鉾が集合。
22:15頃: 各町、笠鉾を御宿や会館へ収容。

本祭（7月25日）

4:30: 鬪雞神社本殿にて暁の祭典。
12:00頃: 各町の笠鉾が本町横町に集結（一部地域を除く）。
12:30頃: 七度半の使い。
14:00頃: 各町の笠鉾が御宿や神社を巡行。
18:00頃: 各町の笠鉾が鬪雞神社鳥居前に集結。
19:30: お宮入り（住矢の走り・神前勤め）。
21:20: 流鏑馬式。
21:30頃: 江川町と本町が笠鉾の面を外す儀式。
21:45: 各町、戻り囃子を奏でながら帰路へ。

御神輿

神輿の巡行は、宮総代、山伏、警護人、衣笠、御神輿、神馬、宮司、神職、巫女、馬、流鏑馬の順で行われます。流鏑馬は、馬上から矢を射る行為であり、田辺祭においては祭の役割担当の名称でもあります。担当地区は毎年、上屋敷町、中屋敷町、下屋敷町、新屋敷町、今福町の五つの町が交代で担当します。

祭と馬

田辺祭は、「馬に始まり、馬で終わる」と言われるほど馬が重要な役割を果たします。祭は4月の御田祭や7月23日の流鏑馬前ぶれから始まり、本祭の夜の流鏑馬で幕を閉じます。かつては神社参道で競馬も行われていましたが、現在は行われていません。

流鏑馬

流鏑馬は、7月25日の笠鉾の神前勤めが終わった後、稚児が騎乗した三騎によって行われる魔除けの儀式です。この間、馬の世話親方の馬子唄が唱えられ、祭礼は終了となります。馬町の御宿は「馬宿」とも呼ばれ、馬の世話や管理を行います。

稚児

祭には3名の稚児が選ばれ、「乗り子」と呼ばれます。狩衣に綾蘭笠をまとい、祭りに華を添えます。

笠鉾・衣笠

笠鉾

田辺地域では山車の一種である笠鉾は「お笠」と呼ばれ、当番役員や稚児が先導します。笠鉾の上座には、町ごとに異なる人形が祀られています。下屋では、太鼓、小太鼓、横笛、三味線または鉦の組み合わせで、町ごとに異なる曲調のお囃子が奏でられます。

衣笠

田辺祭には、江川町、紺屋町、闘鶏神社の3つの衣笠が存在します。松を御神体とし、中央の一本柱に触れると頭が良くなるとの言い伝えがあります。これは、古来から神社において「松」や「一本柱」に神が宿るとされているためです。形状は京都祇園祭の綾傘鉾に類似しています。

笠鉾の巡行順

笠鉾の巡行は、住矢と八町九基で行われ、江川町の住矢が先頭を務め、本町、福路町組、栄町組、江川町組の順で続きます。組内での順番変更はありません。

各町単位の巡行順

各町は、鬼、稚児、当番役、笠鉾曳き、高張提灯持ちの順で巡行します。本町は鬼ではなく天狗が先導します。

各町の笠鉾ならびに衣笠

江川町組: 住矢、恵美須、大黒天
本町: 尉と姥
福路町組: 福路町（日本武尊）、紺屋町（衣笠）
片町: 関羽・神功皇后
栄町組: 栄町（猩生・神功皇后と建内宿禰）、北新町（餅花）、南新町

御宿

御宿は、祭りの期間中に御神体を祀り、参詣者を世話する役割を担う家です。本来は各町内の家が持ち回りで担当しましたが、現在は町内会館が御宿となることもあります。

お囃子

お囃子は、黒髪、越後獅子、娘道成寺など、町ごとに異なる曲目が演奏されます。夜には「戻り囃子」と呼ばれる特別な囃子が奏でられます。練習は年中行われますが、7月頃から本格化します。

事前行事等

祭りは、7月24日・25日の本祭だけでなく、御田祭、出囃子、曳き初めなど、様々な事前行事が神社や町単位で行われます。

御田祭: 4月15日に行われ、神馬が市内を巡行します。
下打ち合わせ・初寄合: 7月1日頃に開催され、祭りの役割分担が決まります。
御祓・笠洗い・御面受け取り: 7月頃から行われ、笠鉾の組み立てや神体の着付けが行われます。
出囃子: 7月19日頃から、各町の御神体のある家に向かい、先囃子・神歌・囃子を演奏します。
曳初め: 7月21日頃に行われ、笠鉾が町内を練り歩きます。
* 流鏑馬前ぶれ: 7月23日に、屋敷町の馬が市内を巡行します。

しきたり・習わし

潮垢離

熊野古道を通る人々が身を清めたとされる潮垢離の習わしが、祭にも取り入れられています。現在は会津橋東詰で行われています。

勤め

「勤め」とは、厄払いや清めなど、各町で異なる意味合いを持つ奉納の儀式です。御宿や神社前で行われ、囃子や歌が奏でられます。女性の参加は、近年になってから裏方や稚児として認められるようになりました。

歴史

田辺祭は16世紀中頃に始まったとされ、能の奉納を経て、笠鉾巡行へと変化してきました。近年では、新型コロナウイルスの影響で祭事が中止されることもありましたが、2023年には4年ぶりに通常開催されました。

担い手の不足

近年、過疎化や高齢化により、祭りの担い手不足が深刻化しています。そのため、町割の変更や日程の見直しなどが議論されています。

田辺祭は、その歴史と伝統を受け継ぎながら、地域の人々によって大切に守り続けられている祭りです。

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