由良哲次

由良哲次：知の探求者、そして多大な貢献者

由良哲次は、1897年に奈良県で生まれ、1979年に逝去した歴史哲学者、日本史家、美術史家、そして熱心な浮世絵蒐集家でした。作家・横光利一の小説『旅愁』のモデルとなった人物としても知られ、その生涯は学問への探求と社会への貢献、そして豊かな人間性によって彩られています。

学問への飽くなき探求

由良は、三重県立第三中学校（現・三重県立上野高等学校）在学中に、のちに文豪となる横光利一と親交を深めました。経済的な困難を乗り越え、滋賀県立師範学校を経て東京高等師範学校に進学。三宅米吉や峰岸米造に師事し、古代史と考古学を学びました。その後、京都帝国大学哲学科に進み、西田幾多郎と田辺元に師事して哲学を修め、哲学雑誌『理想』に論文を発表するなど、早くからその才能を開花させました。

1928年にはドイツに留学。ベルリンやハンブルクで研鑽を積み、エルンスト・カッシーラーのもとで博士論文を完成させました。この留学中、ハイデッガーやフッサールといった当時の著名な哲学者にも会見しており、彼の学問への探求心が窺えます。帰国後は、東京高等師範学校で哲学を教え、1939年には『政界往来』の懸賞論文で第一席を獲得、近衛公爵賞を受賞しました。

戦時中は国家主義哲学者として活動しましたが、敗戦後、教職を辞し、在野の研究者として古代中世史や近世美術史の研究に没頭しました。葛飾北斎と東洲斎写楽の同一人説を唱えるなど、独自の視点と深い造詣を示した研究成果を残しました。

社会への貢献と豊かな人間性

由良は、学問への貢献のみならず、社会貢献にも積極的に取り組みました。莫大な私財を投じて、奈良県新沢千塚群集墳の保護、奈良県立橿原考古学研究所への寄付など、歴史・文化保護に貢献しました。また、公益財団法人由良大和古代文化研究協会を設立し、由良大和古代文化研究基金を設置するなど、後進育成にも尽力しました。これらの寄付総額は、時価で10億円を超えたと推定されています。

さらに、横光利一との友情を称え、伊賀上野公園に「横光利一青春の碑」を建立するなど、人との繋がりを大切にする一面も持ち合わせていました。

家族と遺産

由良の妻は国文学者・吉田弥平の次女であり、山の上ホテルの創業者・吉田俊男や俳人の水原秋桜子とは義兄弟の関係に当たります。息子である由良君美は英文学者として東京大学教授を務めました。

由良の死後、彼が蒐集した美術品は奈良県立美術館に寄贈されました。その遺産は、学問への貢献、社会への貢献、そして人との繋がりを大切にした、由良哲次という人物像を象徴するものであると言えるでしょう。

参考文献

四方田犬彦『先生とわたし』新潮社、2007年
『大正人名辞典 II』日本図書センター、1989年
『財界家系譜大観 第6版』現代名士家系譜刊行会、1984年
『財界家系譜大観 第7版』現代名士家系譜刊行会、1986年
『財界家系譜大観 第8版』現代名士家系譜刊行会、1988年

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