甲斐国造

甲斐国造（かいのくにのみやつこ）

甲斐国造は、古代の甲斐国（現在の山梨県）を支配したとされる地方豪族です。『古事記』や『先代旧事本紀』などの文献にその名が記されています。ここでは、甲斐国造の概要、出自、氏族、支配領域、関連神社などについて詳しく見ていきましょう。

概要

甲斐国造は、甲斐国を支配した国造であり、その存在は古代の甲斐国を理解する上で重要な要素です。国造は、ヤマト王権が地方豪族を任命した世襲の地位であり、地方の政治や文化に大きな影響を与えました。

出自

甲斐国造の出自については、『古事記』と『先代旧事本紀』で異なる記述が見られます。

『古事記』:
若倭根子日子大毘毘命（開化天皇）の子である日子坐王が、沙本之大闇見戸売との間に沙本毘子王をもうけ、この沙本毘子王が甲斐国造の祖とされています。
『先代旧事本紀』:
景行天皇の時代に、狭穂彦王の3世の孫である臣知津彦公の子、塩海足尼が甲斐国造に任命されたと記されています。

このように、甲斐国造の出自については複数の説が存在し、その正確な系譜は明らかになっていません。

氏族

甲斐国造は、甲斐氏（かいうじ）を名乗っており、姓は君でした。皇別出自については異論があり、様々な議論がなされています。

考証

5世紀後半から6世紀にかけて、地方の豪族が農民や職人集団を「部」として組織し、ヤマト王権が地方豪族を国造に任命して地方を統括する体制が整えられたと考えられています。甲斐国では、正倉院宝物の墨書銘や、大原遺跡から出土した墨書土器から、日下部という王族に従属する部が存在したことがわかっています。

氏姓については、関晃は『古事記』に同祖と記される日下部氏であるとし、姓は他の部民管理氏族と共有する直であったと推定しています。一方、鈴木正信は、二条大路出土木簡の記述や他の国造の氏姓から「甲斐直」を推定しています。しかし、どちらの説も現存する史料からは確定できていません。

他地域との関係性

考古学的にも、4世紀に築造された甲斐銚子塚古墳の墳丘形式や出土品から、畿内王権との強い繋がりが見られます。

本拠

甲斐国造の中心地は、塩海宿禰以降は一貫して北部の山梨郡にあり、特に笛吹市旧春日居町あたりから甲府市東部にかけての地域が有力視されています。

支配領域

甲斐国には他の国造が設置されていないため、甲斐国全域が甲斐国造の支配領域であったと考えられています。

氏神

甲斐国の一宮である浅間神社が、甲斐国造の氏神とされています。

関連神社

甲斐国造に関連する神社として、以下のものが挙げられます。

玉諸神社:
甲斐国三宮とされる神社で、国造二代の速彦宿禰が祭祀したと伝えられています。
美和神社:
甲斐国二宮とされる神社で、景行朝に国造の塩見足尼が祭主として祀ったことが起源とされています。
甲斐奈神社:
国造の祖である土本毘古王が祭祀を始めたとされています。
佐久神社:
土本毘古王の古墳跡に創建されたとされています。
金櫻神社（甲府市）:
景行朝に塩見宿禰が社殿を造営したと伝えられています。
金櫻神社（山梨市）:
塩海足尼が本国の天橋立から橋立明神を勧請したと伝えられています。

墓

甲斐国造の墓とされる古墳には、以下のようなものがあります。

大丸山古墳:
塩海宿禰の父である臣知津彦命の墓であると考えられています。
甲斐銚子塚古墳:
国造初祖の塩海宿禰の墓であると考えられています。
天神山古墳:
国造二代の速彦宿禰の墓であると考えられています。

人物

塩海足尼（塩見足尼、塩海宿禰）:
景行朝の初代国造であり、複数の神社の創建に関わったとされています。

まとめ

甲斐国造は、古代の甲斐国を支配した重要な地方豪族であり、その歴史や文化は現代にも多くの影響を与えています。その出自や氏族については様々な説があり、今後の研究の進展が期待されます。

参考文献

『國史大辭典』(吉川弘文館)
坂本太郎・平野邦雄『日本古代氏族人名辞典』(吉川弘文館)
『日本史広辞典』(山川出版社)
『神道大辞典』(臨川書店)
鈴木正信「甲斐国造の「氏姓」に関する再検討」（『日本史研究』584号、2011年）
鈴木正信「甲斐国造の系譜に関する一考察」（『彦根論叢』391号、2012年）

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