甲斐庄正述

甲斐庄正述（かいのしょう まさのぶ）

甲斐庄正述は、生年不詳ながら万治3年（1660年）に没した江戸幕府の旗本であり、甲斐庄氏の3代目にあたります。父は甲斐庄正房。通称は喜右衛門で、これは7代目の正壽まで代々受け継がれました。彼は普請奉行を経て、第17代長崎奉行という要職を歴任しました。

経歴

正述は普請奉行を務めた後、慶安5年（1651年）6月に長崎奉行に就任しました。長崎奉行としては、海外との窓口である長崎の警備や貿易管理に携わりました。

明暦2年（1656年）冬には、沢野忠庵がローマ字で著した「乾坤弁説」の翻訳を西吉兵衛（西玄甫）と向井玄升に命じ、さらに向井玄升には内容の弁説を指示しました。これは、西洋の学問や知識を積極的に取り入れようとする幕府の姿勢を示すものと言えるでしょう。

明暦3年（1657年）には、肥前国大村藩領内で発生した大規模な禁教違反事件である「郡崩れ」の処分を、相役の黒川正直と共に担当しました。この事件では、多数のキリシタンが摘発され、厳正な処分が下されました。正述は、幕府の禁教政策を徹底するため、厳格な態度で臨んだと考えられます。

万治2年（1659年）には、外国船の見張りの重要性から、農民などによる見張りに加えて、新たに遠見役の公儀役人を新設しました。これは、海外からの脅威に対する警戒を強める幕府の意向を受けたものでしょう。正述は、長崎の防衛体制強化に尽力しました。

翌年、在職中に江戸で亡くなりました。

将軍徳川家光の言葉

『大猷院殿御実紀付録』によると、正述が長崎奉行に就任した際、将軍徳川家光は彼を御前に召し、「わが国が、もし外寇によって、いささかでも領土が掠められるようなことがあれば日本の恥辱であるぞ」と、長崎奉行という職の責任の重大さを説きました。そして、「さらば長崎奉行の職は大事なれば、よく心ゆるびなく、おごそかに慎むべし」と戒めました。この言葉は、正述が長崎奉行としていかに重要な役割を担っていたかを示すとともに、幕府が海外からの脅威に対して強い危機感を抱いていたことを物語っています。

親戚

甲斐庄正述、正親の血縁者が、旗本の土屋、大森、加藤の家督を継ぎ、幕府内の重要な役職を得ています。

③大森好長【目付】
⑤土屋正敬【目付、火付盗賊改方】(④土屋勝正の養子)
⑥土屋正慶【大目付、田安家家老】
⑥大森時長【目付、長崎奉行】(⑤大森勝長の養子)
④加藤重長
⑤加藤茂雅(④加藤重長の養子)

正述の一族は、婚姻や養子縁組を通じて他の有力な旗本家と結びつき、幕府内での地位を固めていきました。特に、子の正親は江戸南町奉行、勘定奉行を歴任し、幕政に大きく貢献しました。

人物評価

甲斐庄正述は、長崎奉行として、海外との窓口である長崎の警備や貿易管理に尽力し、幕府の政策を忠実に実行しました。また、西洋の学問や知識の導入にも関心を示し、文化的な側面でも貢献しました。彼は、江戸幕府の安定と発展に寄与した人物として評価されるべきでしょう。

参考文献

* 『寛政重修諸家譜. 第4輯』、國民圖書、1923年、52頁。国立国会図書館デジタルコレクション。

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