羅振玉

羅振玉（らしんぎょく）

羅振玉は、清朝末期から満洲国にかけて活動した、中国の考古学者、教育者です。字は式如、叔蘊、号は雪堂と称しました。彼は、甲骨学や敦煌学の分野における先駆的な研究や、明清時代の貴重な档案資料の保護に大きく貢献しました。また、内藤湖南をはじめとする日本の学者とも交流があり、晩年には満洲国の要職に就きました。

生涯

1866年、江蘇省淮安河下露家橋に生まれました。彼の先祖は浙江省紹興府上虞県の出身でしたが、代々この地で暮らしていました。羅振玉は、1903年に上海で劉鶚が所蔵する亀甲獣骨文字の拓本を目にしたことをきっかけに、甲骨文字研究に深く関わることになります。劉鶚のコレクションは、1903年に『鉄雲蔵亀』として出版されており、貴重な資料でした。1907年からは羅振玉自身も甲骨文字の収集を始め、1911年には『殷虚書契考釈』を発表し、甲骨学研究の基礎を築きました。

敦煌学の分野においても重要な役割を果たしました。1901年以降、スヴェン・ヘディンやオーレル・スタインなどの探検家が楼蘭や尼雅で発掘調査を行い、多数の帛書などの文字資料を持ち帰っていました。1909年には、敦煌文献を入手したポール・ペリオと出会い、まだ残された資料があると知った羅振玉は、敦煌から残りの資料を北京に運び、京師図書館に収蔵させました。これにより、貴重な歴史資料の散逸を防ぎました。

教育者としても活動し、1896年には上海に東文学社を設立し、日本語を翻訳できる人材を育成しました。ここからは、沈紘、樊炳清、王国維といった優れた人材が輩出されました。1909年4月には、北京の京師大学堂農科大学（現在の中国農業大学）の監督に任命されましたが、1912年2月の宣統帝・愛新覚羅溥儀の退位に伴い、この職を辞任しました。また、紫禁城に保存されていた明清時代の档案が古紙として処分されそうになっていることを知り、急遽古紙業者から買い戻し、貴重な歴史資料が失われるのを防ぎました。

辛亥革命後

政治的には保守的で、清朝への忠誠心が非常に強かった羅振玉は、辛亥革命後、混乱を避けるため、家族とともに日本に滞在しました。京都では内藤湖南をはじめとする京都帝国大学の中国学者たちと交流しました。1919年に帰国し、1924年には溥儀に招かれて侍読講師となりました。1928年からは旅順に居住し、1931年に大雲書庫が完成すると、収集した資料を天津から旅順の書庫に移しました。満洲事変後も溥儀に従い、1932年の満洲国成立に伴い、参議府参議に任命され、その後、日満文化協会の会長も務めました。

研究内容と業績

羅振玉は、歴史学研究において、亀甲獣骨文字を通した殷史研究や、高昌国史など西域出土文献資料の研究で大きな功績を残しました。特に甲骨文字研究においては、王国維、董作賓、郭沫若とともに「甲骨四堂」と称され、その功績は高く評価されています。

档案資料の保存という学術的な功績がある一方で、彼は終生溥儀に忠誠を尽くし、満洲国の文化事業に関与したため、現代の中国では、彼に対する人物評価は賛否両論があります。特に、満洲国における活動は、漢奸（売国奴）としての側面を指摘されることもあります。

家族・親族

羅振玉には、歴史学者である長男の羅福成、言語学者である次男の羅福萇、篆刻家の羅福頤がいます。

著作

主な著書としては、『殷虚書契考釈』などがあります。

邦訳された著作には、『甲骨文墨場必携　集殷虚文字楹帖彙編』や『羅振玉自伝：集蓼編その他』などがあります。

外部リンク

CiNii著書
台湾中央研究院-羅振玉

関連項目

甲骨文字
敦煌学
内藤湖南
満洲国
王国維
溥儀

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