畝状竪堀

畝状竪堀（うねじょうたてぼり）とは

畝状竪堀は、戦国時代の城郭に見られる独特な防御施設です。これは、土塁と竪堀（空堀）を交互に連続して設けた構造を持ち、敵の侵入を困難にする目的で使用されました。1959年に田中寅吉によって初めて報告され、その後、千田嘉博が1989年に「畝状空堀群」という呼称を提唱し、その考古学的分類と全国的な分布、成立過程の研究が進められました。

多様な呼称

畝状竪堀は、その形状や構造から、以下のような様々な名称で呼ばれています。

畝形竪堀
連続空堀群
連続竪堀群
畝状空堀群
畝状竪堀群
多重防御遺構
畝状阻塞
畝状阻障
特異施設

この記事では、便宜上「畝状竪堀」という名称を使用します。

構造と目的

畝状竪堀は、土塁と竪堀が交互に隣り合って配置された構造をしています。土塁と土塁の間には竪堀が掘られ、竪堀と竪堀の間には土塁が築かれています。この構造により、敵の侵入経路を堀底に限定し、曲輪の周囲を危険地帯（キルゾーン）にすることが可能でした。特に、少人数で城を守る必要のある場合に、その効果を発揮しました。

畝状竪堀は、主に係争地域の境目に位置する城の、敵の進撃路に面した側に多く築かれました。

呼称の変遷

斜面に築かれたものは「連続竪堀」、尾根や台地に築かれたものは「連続堀切」や「連続空堀」と呼ばれることもあります。江戸時代以前には、以下のような名称が存在しました。

竪堀：長谷山城（兵庫県たつの市・相生市）の古図に見られる
タツホリ：古処山城（福岡県朝倉市）の古図に見られる
立堀：長尾城（福岡県朝倉市）の古図に見られる

現代でも、地域によって以下のような呼称が残っています。

てくのぼり：岩屋城（美作国、現・岡山県津山市）
臼の目堀：篠脇城（美濃国、現・岐阜県郡上市）
ささぎ薙：一乗谷城（越前国、現・福井県福井市）

分布

九州北部

九州北部、特に筑前国中東部、豊前国西部、筑後国北部には、畝状竪堀を持つ城が密集しています。これは、国人領主の秋月氏が畝状竪堀を積極的に築いたためです。長野城（豊前国）、馬ヶ岳城、益富城、荒平城、蔦ヶ岳城などでは、100本を超える畝状竪堀が確認されています。

秋月氏の本拠地である古処山城、荒平城、益富城や、秋月氏と同盟関係にあった一万田系高橋氏、豊前長野氏、星野氏、城井氏などの勢力と敵対する地域には、畝状竪堀の数が多い城が集中しています。

その他の地域

東国においては、日本海側、特に新潟県、山形県、秋田県、長野県などで畝状竪堀を持つ城が多く見られます。一方、東海地方、関東地方、東北地方の太平洋側、北海道地方には比較的少ない傾向があります。織豊系城郭やアイヌのチャシでは、畝状竪堀は積極的に築かれていません。

旧国ごとの城の総数に対する畝状竪堀がある城の比率は、地域によって大きな差が見られます。

研究の歴史

畝状竪堀に関する研究は、1959年の田中寅吉の報告から始まり、千田嘉博による分類と分布の研究によって発展しました。その後、中世城郭研究会を中心に、多くの研究者によって詳細な調査と研究が進められてきました。特に、全国城郭研究者セミナーでは、畝状竪堀に関するテーマが複数回取り上げられ、活発な議論が交わされてきました。

まとめ

畝状竪堀は、戦国時代の城郭における重要な防御施設であり、その独特な構造は、当時の戦術や技術を反映しています。その多様な呼称、分布、地域差の研究は、中世城郭の研究において重要なテーマとなっています。


参考文献

田中寅吉「越後地方に多い城郭の特異施設に就いて」『越佐研究』第15巻、新潟県人文研究会、1959年12月、49-62頁
千田嘉博「中世城郭から近世城郭へ」『月刊文化財』第305号、文化庁監修、第一法規、1989年2月、37-45頁
『第33回全国城郭研究者セミナー』レジメ、中世城郭研究会、開催案内、2016年8月6日。
石田明夫「東北南部を中心とする連続空堀群の城」『第33回全国城郭研究者セミナー』、63-72頁。
水澤幸一「信越の連続竪堀群 : 越後とその周辺」『第33回全国城郭研究者セミナー』、73-90頁。
内野和彦「奈良県下での畝状空堀群を有する城郭について」『第33回全国城郭研究者セミナー』、91-107頁。
秋本哲治「安芸毛利氏本拠地周辺における連続空堀の分布」『第33回全国城郭研究者セミナー』、108-123頁。
吉成承三「畝状竪堀群からみた四国の城館 : 土佐国の事例を中心に」『第33回全国城郭研究者セミナー』、124-138頁。
岡寺　良「九州北部における畝状空堀群の様相」『第33回全国城郭研究者セミナー』、139-160頁。
髙田　徹「近畿地方（＋愛知・岐阜県＋α）の畝状空堀群・畝状竪堀・連続竪堀〈群〉… : その現在・過去・未来」『第33回全国城郭研究者セミナー』、161-180頁。
三島正之「東国における多重防御遺構の展開」『第33回全国城郭研究者セミナー』、181-190頁。
八巻孝夫（編）『中世城郭研究』第31号〈特集・連続空堀群再考〉、中世城郭研究会、2017年7月31日、ISSN 0914-3203。
髙田　徹「畝状空堀群の諸問題 : その現状と課題」『中世城郭研究』第31号、4-37頁。
石田明夫「東北南部を中心とする連続空堀群の城」『中世城郭研究』第31号、258-259頁。
水澤幸一「信越の連続竪堀群 : 越後とその周辺」『中世城郭研究』第31号、260-263頁。
内野和彦「奈良県下での畝状空堀群を有する城郭について」『中世城郭研究』第31号、264-272頁。
秋本哲治「安芸毛利氏本拠地周辺における連続空堀の分布」『中世城郭研究』第31号、273-277頁。
吉成承三「畝状竪堀群からみた四国の城館 : 土佐国の事例を中心に」『中世城郭研究』第31号、278-288頁。
岡寺　良「九州北部における畝状空堀群の様相」『中世城郭研究』第31号、289-292頁。
髙田　徹「近畿地方の畝状空堀群・畝状竪堀・連続竪堀〈群〉… : その現在・過去・未来」『中世城郭研究』第31号、293-296頁。
三島正之「東国における多重防御遺構の展開」『中世城郭研究』第31号、297-298頁。
目黒公司「〈シンポジウム〉連続空堀群再考 概要」『中世城郭研究』第31号、299-312頁。


関連項目
秋月氏
全国城郭研究者セミナー - 第3回 (1986)「いわゆる畝状竪堀群について」、第15回 (1998)「「障子堀」について」、第32回 (2015)「「障子堀」の新展開」，第33回 (2016)「連続空堀群再考」

外部リンク
連続空堀群再考 - 『中世城郭研究』第31号. 第33回全国城郭研究者セミナー. 中世城郭研究会. 2016年8月.
* 畝状阻塁と畝状阻塞について - 余湖 (2011年6月4日).

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