百万一心

百万一心（ひゃくまんいっしん）

百万一心とは、戦国時代の武将、毛利元就が吉田郡山城（現在の広島県安芸高田市）を拡張する工事の際に、人柱の代わりに用いたとされる石碑に刻まれた言葉です。

概要

「百万一心」の文字は、一見すると普通の漢字ですが、よく見ると工夫が凝らされています。「百」の字から一画を省いて「一日」、「万」の字を崩して「一力」と読めるように書かれており、縦書きにすると「一日一力一心」と読めます。これは、「日を同じうにし、力を同じうにし、心を同じうにする」という意味を表し、人々が心を一つにして力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられるというメッセージが込められています。

吉田郡山城の改築工事において、本丸の石垣の構築が難航した際、人柱を立てる代わりに、本丸裏手の「姫の丸」と呼ばれる場所に、この「百万一心」の句を刻んだ石を埋めたところ、工事は無事に完了したと伝えられています。この故事は、毛利元就の有名な教えである「三矢の教え」（兄弟が力を合わせることの重要性を説いたもの）と並び、一致団結の大切さを象徴するものとして語り継がれています。

この石碑は、文化13年（1816年）に長州藩士の武田泰信によって発見されたとされています。武田は拓本の要領で写しを取り、その後、明治15年（1882年）にその拓本を毛利元就を祀る豊栄神社（山口市）に奉納しました。この際、発見の経緯を記した額も奉納されていますが、額には人柱の代わりにしたという記述はなく、毛利家の公式な記録にも記載がないため、伝説としての真実性を疑問視する声も存在します。

その後、吉田町全体で郡山全山を探索しましたが、石碑の現物は発見されていません。そのため、観光パンフレットなどでは「郡山城最大の謎」として紹介されています。昭和6年（1931年）には、吉田郡山城跡にある毛利一族の墓所境内に、拓本を元に模刻した石碑が建立されました。

史料が乏しいため、元就が実際にこの言葉を語ったかどうかは定かではありません。「百万一心」という言葉自体は、元々神道にも見られるものであり、百万一心碑を人柱の代用とすること自体、弘治元年(1555年)の吉田郡山城の戦いで、大内家の武将・弘中隆兼が毛利元就に助言したことが始まりという説もあります。

逸話

安芸高田市歴史民俗博物館で配布されている資料「百万一心のはなし」では、次のようなエピソードが紹介されています。

幼少期の毛利元就（松寿丸）が厳島神社を参拝した際、泣いている少女に出会いました。少女は母親と巡礼の旅をしていましたが、母親が城の築城のために人柱に選ばれてしまったというのです。幼い頃に両親を亡くしている松寿丸は少女に同情し、郡山城に連れ帰りました。

十数年後、元服して吉田郡山城主となった元就は、本丸の石垣が度重なる崩落に見舞われ、困り果てていました。人柱が必要だという声が上がり、普請奉行は巡礼の娘を人柱にすることを決定します。娘は、元就に助けてもらった恩返しとして、人柱になることを快諾しました。しかし、元就は「その娘を人柱にしてはならぬ」と厳命し、翌日、「百万一心」と書いた紙を奉行に渡し、その文字を石に刻んで人柱の代わりに埋めるよう命じました。元就は、人柱を立てる代わりに人命を尊重し、皆で心と力を合わせて事に当たるべきだと教えたのです。

その他

ボーイスカウト山口県連盟の広報誌名にも「百万一心」が用いられています。これは、ボーイスカウト活動の根幹にある質素倹約や一致団結の精神に通じるためです。タイトル字は毛利元道の書によるものです。

脚注

[1] 百万一心碑（吉田町） - 安芸高田市

外部リンク

[1] 百万一心碑（吉田町） - 安芸高田市

もう一度検索