皇室陵墓令

皇室陵墓令（こうしつりょうぼれい）

皇室陵墓令は、1926年（大正15年）10月21日に皇室令第12号として公布された、皇室の陵墓に関する重要な法令です。この皇室令は、1947年（昭和22年）5月2日に「皇室令及附属法令廃止ノ件（昭和22年5月2日皇室令第12号）」により効力を失いました。

制定の背景と目的

皇室の陵墓に関する制度は、日本の歴史とともに変化してきました。大宝律令の時代にはすでに喪葬令が定められ、治部省に諸陵司という専門部署が置かれていましたが、その後長い年月の間に幾度も制度が変わります。その結果、陵墓の管理に関する統一的な基準が失われ、築造される陵墓の規模や形式にもばらつきが生じてしまいました。このような状況を改善し、将来にわたって従うべき規則を確立するために、皇室陵墓令は制定されたのです。その主な目的は、陵墓の管理方法に一定の準拠を設け、規模や形式を統一することにありました。

この法令は陵墓に関するあらゆる事項を網羅するものではなく、陵墓に関しては他にも多くの法令が存在しました。例えば、宮内省内の陵墓関連の組織や人員配置については「宮内省官制（大正10年10月7日皇室令第7号）」に、陵墓における祭祀については「皇室祭祀令（明治41年9月19日皇室令第1号）」や「皇室喪儀令（大正15年10月21日皇室令第11号）」といった他の皇室令に規定がありました。また、陵墓に対する不敬行為や犯罪の取り締まり、処罰については、刑法（第74条第2項）や航空法施行に関連する省令など、一般の法令や省令が適用されました。

皇室陵墓令の主な内容

皇室陵墓令は全45条で構成され、その詳細な実施規則は同時に公布された「皇室陵墓令施行規則（大正15年宮内省令第8号）」によって定められました。この法令において特に注目される規定は、以下の点です。

陵形（りょうけい）の一定化

歴史上の陵墓は、自然の丘陵を利用したものから、時代を経て前方後円墳のような定型、さらには用明天皇陵以降の方墳、上円下方墳、円墳など多様な形式が見られました。遺詔により陵を築かない場合や、遺骨を堂塔の下に納める、石塔を建てるなど、その形式は多岐にわたっていました。明治天皇の伏見桃山陵を築造する際に詳細な検討が行われた結果、外観は天智天皇の山科陵を参考にした上円下方三段型が採用されました。皇室陵墓令では、陵形を原則として上円下方または円丘と規定し（第5条）、伏見桃山陵で採用された上円下方三段型を基本としつつ、状況に応じて孝徳天皇陵などに見られる円丘型も用いることとしました。

陵籍（りょうせき）・墓籍（ぼせき）の設置

後世になって陵墓の所在や被葬者が不明となる事態を防ぎ、また修補や改築を行う際に元の形を正確に引き継ぐための貴重な記録として、陵籍と墓籍が整備されました。この法令では、陵（天皇や皇后などの墓）には陵籍（第6条）を、墓（皇太子以下皇族の墓）には墓籍（第9条）を備えるよう定めました。陵籍には陵およびその附属物の形状を示す図面が添付され（第7条）、追号、陵所、陵名などが記載されました。これらの籍は正本と副本が作成され（第11条）、正本は図書寮、副本は諸陵寮で厳重に保管することとされました（第13条）。

陵墓営建地の限定

かつての皇室陵墓は日本全国に散在していましたが、皇室陵墓令では、将来新しく陵墓を営建する場所を、原則として東京府およびこれに隣接する県の御料地内から勅定することと定めました（第21条）。これは、管理の便宜を図る上で、帝都である東京からあまり遠くない場所に陵墓を集約することが望ましいと考えられたためです。

兆域（ちょういき）の規模制限

従前の陵墓は、その領域（兆域）が数万から数十万平方メートルに及ぶ広大なものでしたが、皇室陵墓令では、陵墓の尊厳を保つのに十分な範囲として、その規模に上限を設けました（第24条以下）。具体的には、天皇の陵の兆域を2500平方メートル、太皇太后、皇太后、皇后の陵を1800平方メートルと定めました。また、皇太子やその妃などの墓は350平方メートル以内、親王以下の皇族の墓は200平方メートル以内とすることで、大まかな基準を設けました。

皇室陵墓令は、近代国家における皇室制度の一部として、長年の歴史の中で多様化した陵墓の管理と形式に一定の秩序をもたらそうとした試みでした。しかし、第二次世界大戦後の制度改革の中で、他の皇室令とともに廃止されるに至りました。

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