遺詔

遺詔（ゆいしょう/いしょう/ゆいじょう/いじょう）

遺詔とは、天皇または上皇が、自身の死後に関する事柄について、生前に指示・命令として残した詔のことです。

概要

日本における遺詔の記録として最も古いものは、『日本書紀』に記載された雄略天皇のものですが、史実として確実視されている最古の遺詔は、推古天皇のものと考えられています。旧皇室典範には、遺詔によって「大傅」を設置できる規定がありました。明治天皇も崩御の9年前に遺詔を準備していたことが記録されていますが、大正天皇と昭和天皇については、特に遺詔の存在は確認されていません。

古代においては皇位継承が不安定であったため、皇后や皇太子に政務を委ねたり、後継者を指名する内容の遺詔がしばしば出されました。時代が下るにつれて、遺詔の内容は自身の諡号や追号、葬儀に関する指示（薄葬の実施など）が中心となっていきます。財産や所領に関する規定は、別途処分状が作成され、将来のために備えられることもありました。

平安時代中期以降、天皇や上皇が崩御し遺詔が残された場合、新しい天皇（上皇崩御の場合は在位の天皇）に遺詔の内容を報告する「遺詔奏（いじょうのそう）」と呼ばれる儀式が行われるようになりました。遺詔奏は、崩御した天皇・上皇の葬儀当日の日中に、葬儀に先立って執り行われるのが通例でした（葬儀後に行われることもありました）。

具体的な流れとしては、まず上卿が陣座に着座し、遺詔を伝える遺詔使が陣外に到着し、外記に遺詔の内容を伝えます。遺詔の内容は通常、葬儀を司る葬司の任命、山陵・国忌・素服・挙哀の停止などに関するものです。外記は上卿に内容を伝達し、上卿は職事を務める弁官を通じて天皇にその内容を奏上します。天皇はこれを受けて廃朝を行うとともに、葬司の任命以下を停止し、一定期間の宴飲・音楽・美服の着用を禁じ、警固・固関の実施を職事を通じて上卿に伝えます。上卿は、その内容を外記を通じて各方面に伝達させます。

参考文献

中村一郎「遺詔奏」（『国史大辞典 1』吉川弘文館、1979年）ISBN 978-4-642-00501-2
田島公「遺詔」（『日本史大事典 6』平凡社、1994年）ISBN 978-4-582-13106-2

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