佐賀郡

佐賀郡の概要

佐賀郡（さがぐん）は、佐賀県（旧肥前国）に位置していた郡です。その名前は、現在の佐賀市や佐賀県の名称の起源となっています。この地域は、古代から中世にかけて、その姿を大きく変え、多くの歴史的な出来事の舞台となりました。

郡域

1878年（明治11年）に行政区画として成立した当初、佐賀郡は現在の佐賀市の大部分を占めていました。ただし、一部の地域は除外されており、具体的には以下の地域を除く範囲です。

蓮池町大字蓮池を除く蓮池町各大字
大和町大字名尾
大和町大字八反原
富士町大字梅野・富士町大字松瀬・富士町大字小副川・富士町大字関屋を除く富士町各大字
三瀬村各町

歴史

古代

佐賀郡の記録は、『肥前国風土記』（8世紀前半頃）に「佐嘉郡（さかのこおり）」として初めて登場します。その後、『日本霊異記』（9世紀前半頃）には「肥前国佐賀郡」と表記されるなど、「佐嘉」と「佐賀」の両方の表記が古代から江戸時代まで混在していました。1870年（明治3年）には、佐賀[[藩]]の通達により「佐賀」に統一されました。

名前の由来

『肥前国風土記』には、佐賀郡の名の由来に関する伝説が記されています。

1. 日本武尊の故事：
かつて、この地には楠の大木が茂り、その影は遠くまで届いていました。日本武尊がこの地を訪れた際、楠の繁栄ぶりを見て「この国は『栄（さか）の国』と呼ぶのがふさわしい」と述べたことが、「栄郡（さかのこおり）」の由来になったとされます。その後、「栄」の字が「佐嘉」に転じたと伝えられています。

2. 賢女の故事：
佐嘉川（現在の嘉瀬川）には「荒ぶる神」がおり、人々を苦しめていました。県主の祖である大荒田が占いを求めたところ、土蜘蛛の賢女である大山田女と狭山田女が、土で人形や馬形を作り神を祀るよう助言しました。その通りにすると氾濫が鎮まったため、賢女らを讃え「賢女郡（さかしめのこおり）」と呼ばれるようになり、後に「佐嘉郡」に転じたとされています。

これらの伝説のほかにも、佐賀郡の名前の由来にはいくつかの説がありますが、いずれも確証はありません。

地名学的な見解

近代地名学の観点からは、以下のような説が提唱されています。

久米邦武の説：「佐賀」は「坂（さか）」の義であり、郡衙の推定地近くに川上川と坂があることから、この地形に由来するという説です。
吉田茂樹の説：嘉瀬川（古代の佐嘉川）が満潮時に逆流することから、「逆川（さががわ）」が「佐嘉川」となり、地名にもなったという説です。
『古代地名語源辞典』の説：「さか・さが」の地名の語源として、傾斜地を指す「坂」説や、砂丘地を指す「洲処（すが）」の転訛説があります。また、「さかと」「さかひと」「さかべ」「さかゐ」などの語源として、水が逆流する「逆」や、境界を意味する「境」などの「さか」音が派生したものと考えられています。

古代の行政

『肥前国風土記』によると、佐嘉郡は郷里制のもと、6郷19里に区分されていましたが、具体的な郷や里の名前は記録されていません。

式内社

『延喜式』神名帳には、郡内の式内社が記録されています。

平安時代の郷

『和名抄』には、風土記と同様に6郷が記されており、郷名も記載されています。

1. 城崎郷（木佐岐）：佐賀市大和町尼寺の国分地区付近と推定。
2. 巨勢郷：佐賀市巨勢町付近と推定。
3. 山田郷（也万多）：佐賀市大和町東山田、大和町川上の西山田付近と推定。
4. 小津郷（乎ツ・乎都）：佐賀市与賀町付近と推定。
5. 深溝郷（布加旡曽・布加無曽）：佐賀市兵庫町から高木瀬町付近と推定。
6. 防所郷：佐賀市鍋島町付近と推定。

中世

郡内では、北部に高木氏、南部に龍造寺氏、於保氏、窪田氏などが勢力を持っていました。与賀荘は、太宰少弐武藤資頼が惣地頭領として支配していました。元寇の頃から室町時代まで、佐賀郡の御家人は武藤少弐氏に従って戦いました。

戦国時代には、伝統的な領主層が没落し、佐賀郡を根拠とする龍造寺氏が台頭しました。龍造寺氏を支えたのは、鍋島氏、石井氏、太田氏、鹿江氏、南里氏などの在地領主で、彼らは龍造寺氏の家臣団を構成しました。龍造寺隆信が沖田畷の戦いで戦死した後、鍋島氏が家督を継ぎ、佐賀[[藩]]が成立しました。

近世

江戸時代には、佐賀郡全域が佐賀[[藩]]領となり、直轄地が多くを占めました。中心部の佐賀城は、龍造寺氏の拠点で、平安末期から存在した村中城を鍋島氏が改修・拡張したものです。

近代以降の沿革

明治初期の支配関係は、「旧高旧領取調帳」に記録されています。

1. 明治4年：廃[[藩置県]]により、藩領が佐賀県、蓮池県、小城県の管轄となります。その後、伊万里県、そして佐賀県の管轄となりました。
2. 明治9年：三潴県、長崎県の管轄となります。
3. 明治11年：郡区町村編制法の施行により、行政区画としての佐賀郡が発足しました。
4. 明治14年：佐賀城下の武家地より、水ヶ江町、東田代町、松原町、与賀町、赤松町、西田代町が起立しました。
5. 明治16年：再び佐賀県の管轄となります。
6. 明治22年：佐賀市が発足し、佐賀郡から離脱しました。残りの区域は、以下の各村が発足しました。
* 北川副村、東川副村、新北村、中川副村、大詫間村、南川副村、西川副村、本庄村、東与賀村、西与賀村、嘉瀬村、久保田村、神野村、古瀬村、鍋島村、兵庫村、高木瀬村、春日村、金立村、久保泉村、川上村、小関村、松梅村。
7. 明治30年：郡制が施行されました。
8. 明治32年：古瀬村が巨勢村に改称されました。
9. 大正11年：神野村が佐賀市に編入されました。
10. 大正12年：郡会が廃止されました。
11. 大正15年：郡役所が廃止され、地域区分名称となりました。
12. 昭和28年：南川副村が南川副町となりました。
13. 昭和29年：兵庫村、巨勢村、西与賀村、嘉瀬村、高木瀬村、北川副村、本庄村、鍋島村、金立村、久保泉村が佐賀市に編入されました。
14. 昭和30年：東川副村と新北村が合併して諸富町、中川副村、大詫間村、南川副町が合併して川副町、春日村、川上村、松梅村が合併して大和村となりました。
15. 昭和31年：西川副村が川副町に編入され、小関村が小城郡と合併して富士村となりました。
16. 昭和33年：富士村の一部が、大和村に編入されました。
17. 昭和34年：大和村が町制施行して大和町となりました。
18. 昭和41年：東与賀村が町制施行して東与賀町、富士村が町制施行して富士町となりました。
19. 昭和42年：久保田村が町制施行して久保田町となりました。
20. 平成17年：諸富町、大和町、富士町が佐賀市と合併しました。
21. 平成19年：川副町、東与賀町、久保田町が佐賀市に編入され、佐賀郡は消滅しました。

変遷表

行政区画としての佐賀郡は、長崎県佐賀郡長、佐賀県佐賀郡長によって統治されました。



このように、佐賀郡は古代から現代に至るまで、その地域名を変えながらも、歴史と文化を育んできた地域です。

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