祖山村太郎助

祖山村太郎助とは、江戸時代初期に加賀藩領であった越中国砺波郡五箇山地方のうち、利賀谷組の行政実務を担った代官職、すなわち十村（とむら）役を務めた家系名です。祖山村（現在の富山県南砺市）を拠点とし、代々「太郎助」を名乗った初代、二代目、三代目が連続してその任に就き、通算57年間にわたり地域の支配・管理にあたりました。彼らの苗字は岡部で、その祖先は武蔵七党の一つである猪俣党岡部忠綱にさかのぼると伝えられています。家系は22代目の政季の時代に越中国の金屋村へ移住し、九郎左右衛門を称しました。その後、29代目の賀潤の代に祖山村へと移り住み、祖山村岡部家の初代となったとされます。

五箇山統治体制と十村役

加賀藩が五箇山地方を支配する体制が確立された当初、代官には瑞泉寺下梨道場（後の瑞願寺）に関わる五ヶ山市助が任命されました。市助家は天正13年（1585年）の初代任命以来、約100年にわたり5代にわたってこの職を世襲します。しかし、慶安4年（1651年）からは、新たに細嶋村の源太郎が市助家と同格の十村として任命されました。これにより五箇山は二つの区域に分けられ、市助が西半（赤尾谷・上梨谷・下梨谷、赤尾谷組と呼ばれる）を、源太郎が東半（小谷・利賀谷、利賀谷組と呼ばれる）をそれぞれ管轄する体制が確立されました。この二分割統治体制が、その後の五箇山の行政の基盤となります。

初代祖山村太郎助

利賀谷組の十村であった細嶋村源太郎が延宝5年（1677年）8月に職を退いた後、その地位を引き継いだのが初代祖山村太郎助です。同時期には赤尾谷組の十村も市助家から松尾村与次兵衛へと代替わりしており、初代太郎助は主に与次兵衛と連携を取りながら、利賀谷組の行政運営に尽力しました。初代の在任期間には、元禄3年（1690年）に池田田七らが祖山村へ流刑になった出来事がありました。これは五箇山における流刑として記録に残る最初の事例です。

また、元禄4年（1691年）と元禄7年（1694年）には、加賀藩が領内全体の物産調査を実施しました。その結果は『元禄中農隙所作村々寄帳』としてまとめられ、五箇山東半については「祖山村太郎助与」として言及されています。ここには、中折紙、塩硝、塩付ぜんまい、堅炭といった主要な特産品に加え、大牧村の温泉についても記録が残されています。初代太郎助は正徳3年（1713年）12月に職を退きました。

二代目祖山村太郎助

初代太郎助の引退を受けて、その子息である二代目太郎助が正徳4年（1714年）5月28日に十村役を引き継ぎました。二代目が就任した正徳4年当時の祖山村岡部家の持ち高は、86石5勺と記録されています。また、二代目の在任中にあたる享保期には、社会状況の一端を示す古文書が残されています。これは享保15年と享保19年の利賀谷組の戸数を比較したもので、享保15年には410軒あった戸数が、享保19年には357軒に減少していたことが記されています。戸数減少の原因についても詳細があり、逃亡（走り百姓）が5軒、家系が途絶えた（死絶）が7軒、そして奉公などにより家を出た者が41軒であったと記録されています。二代目太郎助は享保16年（1731年）4月4日に引退しましたが、後任の決定に時間を要したためか、約1年間にわたり赤尾谷組の十村であった下梨村宅左衛門が、利賀谷組の十村も一時的に兼任しました。このように、次の十村が決まるまでの間、暫定的にその役割を担う者は「当分才許（とうぶんさいきょ）」と呼ばれていました。

三代目祖山村太郎助

下梨村宅左衛門が「当分才許」として一時的な職務を終えた後、享保17年（1732年）6月16日からは三代目祖山村太郎助が利賀谷組の十村に就任しました。三代目は、先の二代目から職を受け継いだ人物です。三代目の在任期間、特に享保17年中には、下梨村宅左衛門とともに五箇山で頻発していた地すべりに関する記録を郡奉行へ提出しています。この記録には、当時の五箇山で地すべりを「蛇喰（じゃばみ）」や「貝喰（かいばみ）」と呼んでいたことが記されており、当時の人々の自然現象に対する認識をうかがい知ることができます。

享保19年（1734年）には、その年に収穫された雑穀の種類と量を記した「祖山村太郎助出来雑穀図り書」が作成されました。また、同年中には利賀谷組における蚕糸の年間生産高に関する記録も残されており、当時の地域経済の様子を示す貴重な資料となっています。三代目太郎助は享保19年12月16日に引退しましたが、その後再び下梨村宅左衛門が「当分才許」として利賀谷組の行政を担当することになりました。その後の元文5年（1740年）7月13日には、岩渕村の伊右衛門が利賀谷組の十村となりますが、祖山村で発生した「大槻騒動」に関与して失脚します。これを機に、以降利賀谷組には五箇山出身の十村が任命されることはなくなりました。

三代にわたる祖山村太郎助家は、延宝5年（1677年）から享保19年（1734年）までの約57年間、五箇山利賀谷組の十村として、村政の運営、貢租の徴収、治安の維持、災害対策など、地域社会の多岐にわたる行政実務を担いました。彼らの活動の記録は、江戸時代中期における五箇山地方の行政、経済、社会状況を知る上で重要な史料となっています。

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