神原周

神原周

概要

神原周（かんばら しゅう、1906年9月22日 - 1999年12月7日）は、日本の化学者であり、特にゴムや合成繊維の研究で多大な業績を残しました。彼の研究は、日本の化学産業の発展に大きく貢献し、多くの教え子を育てました。教え子の一人である白川英樹は、後にノーベル化学賞を受賞しています。

生い立ちと学生時代

1906年、東京府東京市本郷区（現在の東京都文京区本郷）に生まれた神原は、幼少期に父の事業の失敗という困難を経験しました。しかし、母の支えや親戚の援助により、成城中学校に進学。文学少年としてロマン・ロランやギ・ド・モーパッサンを愛読していました。

1924年には第一早稲田高等学院に進学。中学の同級生が『戦旗』編集長を務めていた関係で、特高にマークされた時期もありましたが、その後、早稲田大学理工学部に進み、応用化学科で松井元太郎教授の研究室に入りました。卒業研究では、スズや硫黄の融点を測定しました。

研究者としてのキャリア

1930年に大学を卒業後、東京工業大学に移った松井教授の下で助手として採用され、東工大の図書館の蔵書を全て読み通すという徹底した姿勢で研究に打ち込みました。1934年、田中芳雄教授の研究室に移籍し、専門を無機物理化学から応用化学へと転換。ゴムの加硫研究に取り組み始めました。

海軍の顧問を務めていた田中教授を通じて、ドイツ製のOリングの分析を依頼され、その合成ゴムがアクリロニトリルを成分としていることを突き止めました。しかし、海軍から同等品の開発を命じられたものの、当時の日本ではエタノールからエチレンを合成する段階から始める必要があり、生産プロセスへの移行は困難でした。この時の経験から、神原は基礎研究の重要性を強く認識したと言われています。

1940年、独立して自身の研究室を立ち上げ、日東紡績からの派遣者とともにポリアクリロニトリルを濃硫酸に溶かすことで透明で強度の高い合成繊維の開発に成功しました。この繊維は「シンセン」と命名され、特許も取得しましたが、戦時中の空襲で研究は中断。戦後、溶媒を濃硝酸に変えて旭化成からカシミロンとして商品化されました。

1944年には、生ゴム溶液の導電率が加工プロセスによって変化することを示す研究で東京帝国大学から工学博士号を取得しました。戦時中は、空襲で被害を受けた研究者を自宅に収容しながら研究を続け、風船爆弾や飛行機の風防ガラスの研究にも携わりました。

戦後は、ゴムの加硫工程における基礎研究に取り組み、天然ゴムと硫黄の反応生成物を酸化して硫黄架橋の構造を解明するなど、多くの成果を挙げました。1952年には文部省の海外派遣留学生として渡米し、ブルックリン工科大やMIT、アクロン大学などで学びました。帰国後は、通産省の合成ゴム工業調査団に参加し、アメリカやヨーロッパのタイヤ工場や石油化学工場を視察。その経験は、日本におけるコンビナート融資の技術審査に活かされました。

また、1953年の発見を受けてチーグラー・ナッタ触媒の研究にも着手し、三井化学との共同研究などを進めました。この触媒研究はポリアセチレンの合成へと発展し、教え子である白川英樹のノーベル化学賞受賞につながる重要な基礎となりました。

教育者としての活動

神原は、教育者としても卓越した才能を発揮しました。講義では常に最先端の研究テーマを取り上げ、学生たちの知的好奇心を刺激しました。研究室では、学生たちに大きな目標を持たせ、その達成を全力でサポートしました。彼のもとからは、山崎升や白川英樹など、約20名もの大学教授が輩出され、彼が指導した卒業生は1,000名以上とされています。

東工大退官後

1967年に東京工業大学を定年退官した後も、東京農工大学の教授や工学部長を歴任。日本化学会の副会長も務めました。その後も、全国石油工業協同組合の潤滑油中央技術研究所所長や、化学品検査協会（現・化学物質評価研究機構）の理事長を務めるなど、晩年まで精力的に活動しました。化学品検査協会では、化審法の対象物質の適合検査のために無菌動物を手配するなど、その活動は多岐にわたりました。

私生活では、夫人の勧めによりカトリック教会に入信し洗礼を受けました。1999年12月7日、心筋梗塞のため93歳で逝去するまで、その情熱は衰えることはありませんでした。

受賞・栄典

オーエンスレーガー賞（日本化学会、日本ゴム協会）：1960年
紫綬褒章：1966年
勲二等瑞宝章：1977年

参考文献

山本明夫「神原周とその時代 -第1回 戦前戦中時代-」『高分子』第56巻第8号、高分子学会、2007年
山本明夫「神原周とその時代 -第2回 戦中から戦後にかけて-」『高分子』第56巻第9号、高分子学会、2007年
『Polymer News』 Vol. 22、記事Columns 『Personalities in Polymer Science』　筆者：Otto Vogl and Sei-ichi Nakahama、発行：Overseas Publishers Association、1997年刊
山崎升「日本の高分子科学技術史 人物史 神原周先生」『高分子』第47巻6supplment、高分子学会、1998年

関連項目

東京工業大学の人物一覧

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