神君アウグストゥスの業績録

神君アウグストゥスの業績録（Res Gestae Divi Augusti）

『神君アウグストゥスの業績録』は、初代ローマ皇帝アウグストゥスが自身の人生と業績を一人称で綴った記念碑的な碑文です。これは、アウグストゥスがローマ市民に対して行ったイメージ戦略を理解するための重要な資料であり、ユリウス＝クラウディウス朝設立の記念碑としての側面も持っています。実物は現存していませんが、トルコで発見された多数の断片が復元され、現代に伝えられています。

歴史

本文によれば、この碑文は西暦14年のアウグストゥスの死の直前に記述されたとされていますが、おそらくそれ以前から書かれており、改訂が重ねられた可能性があります。アウグストゥスは、元老院に碑文を掲示するように指示した遺言とともに『業績録』を残しました。原本は2本の青銅柱に刻まれ、アウグストゥス廟の入り口に設置されましたが、現存していません。しかし、多くのレプリカが作成され、ローマ帝国全域の記念碑や寺院の石に刻まれたため、いくつかの碑文が現在まで残っています。

その中でも最も重要なのは、ラテン語とギリシャ語で書かれたほぼ完全な状態の「アンキューラ碑文」です。これは、現在のトルコ・アンカラにある「ローマとアウグストゥス神殿」で発見されました。その他にも、ピシディア地方のアポロニアやアンティオキアでも発見されています。これらの発見により、『業績録』はおおよそ復元され、現在に伝えられています。

内容

構成

『業績録』は、短い序文と35節の本文、そして死後に付された4つの補遺で構成されています。本文は慣習的に4つに分類されますが、分類方法には諸説あります。テオドール・モムゼンは1節と2節を第1部と考えましたが、これらを導入部と見なす考え方もあります。ここでは、モムゼンの説に従い、1節と2節を第1部に含めて考えます。

序文

「アンキューラ記念碑」の冒頭には、アウグストゥスの業績録の正式名称が記されています。

『神君アウグストゥスの業績録』は、正式には『それによって彼が世界をローマ市民たちの支配に従わせた神アウグストゥスの業績と国家とローマ市民たちのために彼が為した支出』です。

各部の内容

第1部 (1-14節): アウグストゥスの政治的な業績、彼に与えられた役職や名誉、そして彼が拒否した役職や特権が記録されています。
第2部 (15-24節): 市民や兵士への金銭や土地、穀物の寄付、公共事業や娯楽など、アウグストゥスが自身の資産から支出した内容が強調されています。
第3部 (25-33節): 軍事的功績や対外交渉に関する記録が記されています。
第4部 (34-35節): アウグストゥスの統治と功績に対するローマ市民の承認が記されています。

補遺

補遺は三人称で書かれており、アウグストゥス自身によるものではないと考えられています。本文全体の要約、建築・改修された建物、アウグストゥスが公共事業に費やした6億デナリウスという莫大な金額が記録されています。

性格

『神君アウグストゥスの業績録』は、プリンキパトゥスを確立するためのプロパガンダとしての性格を持っています。ガイウス・ユリウス・カエサルの暗殺からアクティウムの海戦における勝利までの出来事を飾り立てて述べる傾向があり、政敵については言及を避けています。例えば、カエサル暗殺者のマルクス・ユニウス・ブルトゥスやガイウス・カッシウス・ロンギヌスは「養父カエサルの暗殺者」としか呼ばれていません。マルクス・アントニウスやセクストゥス・ポンペイウスも匿名で、「党派」や「海賊」と表現されています。

アウグストゥスは、元首政を「同輩中の首席」以上の何者でもない指導者の元での共和政の「復興」を推進する統治体制と公式に述べていますが、実際にはローマ軍団を背景に政治を行う様子は、神授王権を主張する絶対君主制に類似しています。

『業績録』は、実験的な経歴を持つ初代ローマ皇帝アウグストゥスのための独特なプロパガンダであり、後の歴史家によって史料として用いられています。アウグストゥスが自身の統治方法について一人称で説明しているという点が重要であり、彼の統治を研究する上で欠かせない資料となっています。

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