神経ブロック

神経ブロック（Nerve block）

神経ブロックは、局所麻酔薬などを用いて神経に沿って伝わる生体の信号を意図的に遮断する医療技術です。主に痛みの緩和を目的として行われ、伝達麻酔とも呼ばれます。

概要

神経ブロックは、局所麻酔薬を神経付近に注射することで、一定範囲の神経伝達を遮断します。効果は通常数時間から数日程度ですが、薬剤や手技によってはより長期間の効果も期待できます。浸潤麻酔と比較して、効果範囲が広く、注射部位から離れた場所にも効果が現れるのが特徴です。例えば、腕神経叢ブロックでは首に注射しても、手先まで麻酔効果が及びます。

神経ブロックは、手術時の麻酔だけでなく、様々な神経痛に対する鎮痛目的でも用いられます。交感神経節を対象とした神経ブロックは、血行改善効果による慢性疼痛の緩和を目的として行われることがあります。歯科領域でも、下顎神経ブロックなどが行われます。近年では、超音波診断装置の普及により、針の位置や神経の状態を確認しながら安全かつ確実に行えるようになっています。

麻酔法の分類における位置付け

局所麻酔薬を用いて体の一部の痛みを遮断する方法は、一般に区域麻酔と呼ばれます。区域麻酔は、組織そのものに注射する方法、四肢の静脈に注射する方法、神経幹の周りに注射する方法の3つに大別されます。神経ブロックは、このうち神経幹の周りに注射する方法に該当し、末梢神経ブロックと脊髄幹ブロックに分けられます。

本項では、脊髄幹ブロックを含まない、狭義の神経ブロックを中心に解説します。

適応

神経ブロックは、急性痛や慢性痛の治療、手術中の麻酔など、幅広い状況で適用されます。手術や痛みの部位によって、ブロックを行う部位は異なります。神経ブロックによる鎮痛効果は、手術中だけでなく術後も持続するため、鎮痛剤の使用量を減らすことができます。

交感神経節をターゲットとした神経ブロックは、血行改善効果により、慢性疼痛の緩和や、各種血行障害、自律神経の異常による多汗症などにも効果が期待できます。

手術

神経ブロックは、身体の多くの部位の麻酔に使用できます。患者の快適性と手術の容易さのために、神経ブロックを全身麻酔または鎮静と併用することもあります。

神経ブロックで行われる代表的な手術は以下の通りです。

歯科：抜歯や手術時の下顎神経ブロック
眼科手術：球後麻酔
肩及び腕の手術：腕神経叢ブロック又は静脈内局所麻酔
泌尿器科の手術: 閉鎖神経ブロック
* 下肢の骨・関節手術

急性痛

急性痛は、外傷、手術、感染症、血行障害などが原因で発生します。多くの急性痛は鎮痛剤で管理できますが、より優れた痛みの制御と少ない副作用のために、神経ブロックが望ましい場合があります。

慢性疼痛

慢性疼痛は、専門家による診断と治療が必要です。神経ブロックは、慢性化した痛みの悪循環を遮断する目的で行われます。オピオイドやNSAIDsなどの薬物療法と併用されることもあります。

痛み以外の症状・疾患

星状神経節ブロックは、交感神経遮断による血行改善効果により、帯状疱疹、手掌多汗症、複合性局所疼痛症候群（CRPS）などに有効な場合があります。

神経ブロックに使用される薬剤

局所麻酔薬

局所麻酔薬は、神経ブロックに必須の薬剤です。エステル型とアミド型に分類され、それぞれ作用時間や特徴が異なります。末梢神経ブロックには、リドカイン、ロピバカイン、ブピバカイン、メピバカインなどがよく用いられます。

添加薬

局所麻酔薬に添加薬を併用することで、鎮痛時間の延長や効果発現時間の短縮が期待できます。エピネフリン、クロニジン、デクスメデトミジンなどが使用されます。

合併症

神経ブロックの合併症として最も多いのは、感染、出血、ブロックの失敗などです。神経損傷はまれですが、起こりうる副作用です。超音波ガイド下での手技により、合併症のリスクは大幅に低減されています。

局所麻酔薬中毒は、口の周りのしびれやピリピリ感、金属味、耳鳴りなどの症状で発見されることがあります。重症化すると、痙攣発作、中枢神経抑制、昏睡などを引き起こす可能性があります。

歴史

局所麻酔の起源は古代に遡りますが、近代医学への応用は19世紀後半にコカインが発見されてからです。カール・コラーがコカインを眼科手術に用いたのが、最初の記録とされています。その後、様々な局所麻酔薬が開発され、神経ブロックの手技も発展してきました。20世紀後半には、超音波診断装置が登場し、神経ブロックの安全性と確実性が向上しました。

日本の状況

日本では、1962年に東京大学にペインクリニック外来が設立され、神経ブロックが疼痛治療に取り入れられました。近年では、超音波ガイド下神経ブロックの普及により、区域麻酔が再評価されています。日本区域麻酔学会では、区域麻酔の専門家を育成するための検定試験を実施しています。

神経ブロックは、高度な知識と熟練を要する医療技術ですが、適切に行えば、痛みの緩和や手術の安全性の向上に大きく貢献することができます。

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