福澤駒吉

福澤駒吉：電力と化学の分野で活躍した実業家

福澤駒吉（1891年1月5日 - 1945年3月18日）は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本の実業家です。「電力王」と呼ばれた福澤桃介の長男であり、福澤諭吉の孫としても知られています。父の桃介が築いた電気事業に参加する傍ら、化学工業分野で独自の道を切り開き、東亞合成化学工業（現・東亞合成）の初代社長を務めました。

生い立ちと初期のキャリア

駒吉は1891年、福澤桃介と福澤諭吉の次女・房の間に東京で生まれました。父・桃介は当時、北海道炭礦鉄道に勤務しており、実業家としての道を歩み始めたばかりでした。駒吉は慶應義塾大学を卒業後、アメリカへ留学し、帰国後、父から苛性ソーダ製造の事業化を命じられます。化学者・山崎甚五郎の指導のもと、名古屋電灯の社有地を借りて試験工場を建設し、1916年に「東海曹達工業所」を設立しました。

東海曹達とソーダ事業への注力

東海曹達工業所での苛性ソーダ製造は順調に進み、駒吉は自らソーダ製造法を発明し特許を取得するほどの熱意を持って事業に取り組みました。1916年12月には、桃介や三菱財閥の岩崎久弥らの出資により東海曹達株式会社が設立され、駒吉は初代社長に就任しました。当時25歳という若さで、これが実業家としての第一歩となりました。名古屋港に本格的なソーダ工場を建設し、製品の出荷を開始。戦後恐慌の際には、操業効率改善のためにアレン・ムーア式隔膜電解法を導入するなど、技術革新にも積極的に取り組みました。

需要増加に対応するため、昭和曹達株式会社を設立し、新工場を建設。東海曹達はその後、設備を維持したまま1936年末まで操業を続けました。石山賢吉が工場を訪れた際には、老朽化が目立つ工場であったと記録されています。

電気事業への関与

ソーダ事業と並行して、駒吉は電気事業にも深く関わりました。東海電極製造（現・東海カーボン）の設立に参加し、取締役に就任。また、父・桃介が設立に関与した矢作水力と白山水力の取締役も務めました。矢作水力では副社長、そして社長として、矢作川水系での電源開発を推進しました。さらに、天竜川電力の社長も兼任し、矢作水力との合併を主導しました。これらの合併により、矢作水力は業界大手の一角を占める電力会社へと成長しました。

東邦電力でも取締役、常務取締役を歴任し、経営に参画しましたが、後に取締役を退任しました。

東亞合成化学工業の設立と晩年

駒吉は、矢作水力で開発した電力を利用して窒素工業事業を立ち上げました。子会社・矢作工業を設立し、アンモニア、硫安、硝酸の製造を開始しました。ソーダ事業では、鶴見曹達、四国曹達を設立し、それぞれ社長を兼任しました。日中戦争勃発後、国家統制が強化される中で、矢作水力は矢作工業を合併。その後、電気事業を日本発送電と中部配電に出資し、会社を解散しました。

化学工業部門は再度独立し、矢作工業（第二次）が設立され、駒吉は社長に就任しました。戦局が悪化する中、福澤系の矢作工業・昭和曹達と三井化学工業系の北海曹達・レーヨン曹達の4社合併が決定。1944年7月、東亞合成化学工業が発足し、駒吉は初代社長に就任しました。しかし、体調を崩し、半年後に社長を退任。療養生活を送る中、1945年3月18日に鎌倉の別邸で亡くなりました。

人物像

駒吉は1918年にいとこの八重子と結婚。趣味は自動車で、自ら運転し、自動車販売会社も経営していました。幅広い事業を手掛け、日本の産業発展に貢献した人物として、その功績は高く評価されています。

主な役職

矢作水力取締役、副社長、社長、会長
白山水力取締役
東邦電力取締役、常務
天竜川電力取締役社長
大同電力監査役
東海曹達取締役社長
昭和曹達取締役社長
東亞合成化学工業取締役社長
* 東海電極製造取締役

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