福興

福興（ふくこう）

福興（ふくこう、女真音：フシン、? - 貞祐3年5月2日（1215年5月31日））は、金朝の官僚であり、国姓である女真完顔部の出身でした。太祖阿骨打の弟である鄆王吾都補（完顔昂）の孫にあたり、完顔鄭家奴の子として生まれました。漢名は承暉、字は維明です。

生涯

金の宗室出身であった福興は、その出自の良さから早くから官界に入り、世宗に仕えて経験を積みました。世宗の孫である麻達葛が皇太孫に定められると、その侍正に選ばれました。章宗（麻達葛）が即位すると、側近として登用され、兵部侍郎兼右補闕という重要な役職に進み、さらに章宗の制度改革によって新設された提刑司の東京咸平等路提刑副使となり、以後地方官を歴任しました。

その後、中央政府に召還され、刑部尚書に就任、知審官院を兼ね、さらに知大興府事（金朝の首都である中都大興府、現在の北京の長官）に転じましたが、再び地方官に移り、山東路統軍使として南宋との戦争の最前線を指揮しました。福興は学問を好み、しばしば不条理に対して皇帝に直言する剛直な性格の持ち主でした。

泰和6年（1206年）には、章宗の命により、皇叔である衛王果繩（衛紹王）を正使、福興を副使として、モンゴル高原にいるチンギス・カンの下へ使者として赴きました。その際、チンギス・カンは衛王を愚鈍と見下し、むしろ鋭い面構えを持つ福興に好意を示して対応したと言われています。

泰和8年（1208年）、衛紹王が皇帝に即位すると、中央政府に戻り、御史大夫・参知政事を歴任しました。大安3年（1211年）、チンギス・カン率いるモンゴル帝国軍が金に侵攻してくると、尚書左丞に任ぜられ、同族の参知政事完顔胡沙と共に防衛にあたりましたが、敗れて解任されました。貞祐元年（1213年）、衛紹王が廃され、宣宗が即位すると再任されて尚書右丞に任ぜられ、衛紹王を殺した胡沙虎が誅されると平章政事兼都元帥に昇進し、対モンゴルの全権を委ねられました。この間、家族を残してきた滄州が落城し、後妻と末子らをまとめて失うという悲劇に見舞われました。

貞祐2年（1214年）、モンゴル軍は中都に迫りますが、福興は和議を提案し、反対派を押し切って歳貢の支払いや皇女の降嫁など、全面降伏に近い内容を含む和平を取りまとめました。和平成立後、宣宗が中都を捨てて開封に遷都（貞祐の南遷）することに反対しましたが容れられず、自らは右丞相兼都元帥の肩書きを帯びて中都に留まりました。

モンゴル軍は宣宗の遷都を和平違反とみなし、金への再度の遠征を開始しました。福興は中都の官民を激励して抵抗を指揮しましたが、中都はモンゴルの大軍の包囲にさらされ、疫病が蔓延し、さらには難民が殺到して人口過剰になったこともあり、深刻な食糧不足に陥りました。また、開封からの食糧護送隊が派遣されても、その途中でモンゴル軍に壊滅され奪われるという状況でした。貞祐3年（1215年）5月、陥落を目前に部下の命を救うため、降伏を許可し、自身は服毒自決して中都は落城しました。チンギス・カンは、優秀な福興の死を惜しみ、手厚く埋葬したと伝えられています。

宣宗はその死を大いに悼み、開府儀同三司・太尉・尚書令・広平郡王を追贈し、忠粛王と諡しました。また、福興の嫡子を広平郡王に世襲させ、要職に就けたとされています。

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