穀断ち

穀断ち（こくだち）は、仏教や修験道において行われる修行の一つで、穀物を摂取せずに修行に励むことを指します。木食戒（もくじきかい）や断穀行（だんこくぎょう）とも呼ばれ、具体的には五穀または十穀といった穀物を断つことを意味します。

この修行の目的は、穀物を人間の穢れにまみれた俗世のものと捉え、それらを断つことで修行者の身を清めることにあります。特に修験者によって多く行われ、苦行の一形態とされています。穀物を断つ期間中は、木の実や草の根などを主食としていたとされますが、五穀や十穀とされる穀物の種類には諸説があるため、その内容は様々です。また、禁止する穀物の種類によって修行の困難さも異なるとされています。

穀断ちは、即身仏となるための修行である入定の初期段階としても行われました。この修行を行った者は、古くは「穀断聖（こくだちひじり）」、中世以降は「十穀聖（じっこくひじり）」や「木食（もくじき）」と呼ばれました。木食戒を守った者は「木食上人（もくじきしょうにん）」とも呼ばれます。中世後期以降には、勧進聖として活躍する者も多く現れました。

これらの聖たちは人々の崇敬を集める一方で、穀断ちを偽り実際には米を食べていたことが発覚し、嘲笑された聖の伝説も存在します。最古の記録としては、9世紀に成立した歴史書『文徳天皇実録』に登場する「米糞聖人（こめくそしょうにん）」の事件が挙げられます。この話は後に『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』で脚色され、滑稽な物語として広く語り継がれました。類似の詐称僧に関する説話は、5世紀成立の漢語仏典である『大智度論』にも遡ることができるとされています。

なお、道教にも「断穀（辟穀）」という同様に穀物を食べない修行がありますが、こちらは断食に近いものとされています。

関連用語として、「断ち物」があります。

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