穂積家 (伊予国)

穂積家（ほづみけ）は、日本の近代において華族（男爵）に列せられ、特に学術分野で多大な貢献をしたことで知られる家系です。その起源は古く、古代の神話に登場する饒速日命（ニギハヤヒノミコト）を祖とする穂積氏の流れを汲むとされています。

穂積家の近代における歴史は、幕末期の宇和島藩士、鈴木重麿（すずき しげまろ）の息子である重樹（しげき）が、明治維新という社会変革期に、祖先に由来する穂積姓に復姓したことに始まります。

穂積家は、宇和島藩主伊達家が仙台藩伊達家から分派する以前から、伊達家の譜代家臣として仕えてきた歴史を持ちます。重樹の父である鈴木重麿は、学問に秀でており、宇和島藩に思想としての国学を導入し、その普及に努めた人物でした。重樹は、父の学問的遺産を受け継ぎ、穂積姓に復した後も、国学の研究と教育に情熱を注ぎました。彼は藩校で国学の教授を務める一方、自らも私塾を開いて門弟を育成するなど、国学の振興に尽力しました。

穂積重樹の功績は、彼の息子たちによってさらに発展させられました。長男の穂積重頴（しげあき）は、実業界に進出し、日本の近代経済を牽引した第一国立銀行（現在の三井住友銀行の前身の一つ）の頭取として手腕を発揮しました。

次男の穂積陳重（のぶしげ）は、日本の近代法学の確立者として極めて重要な人物です。彼は日本で最初に法学博士号を取得した五人のうちの一人であり、東京帝国大学（現在の東京大学）法学部長として、多くの優れた法学者や法律実務家を育てました。

学者としてだけでなく、陳重は公職でも重要な役割を果たしました。彼は勅選の貴族院議員に任命され、その後に華族として男爵の位を授けられました。晩年には国家の最高諮問機関である枢密院の議長を務めるなど、その影響力は学界に留まりませんでした。その生涯の功績に対し、最高位の勲章の一つである勲一等旭日桐花大綬章が授与されています。

三男の穂積八束（やつか）もまた、法学者、特に憲法学者として名を馳せました。兄・陳重と同じく東京帝国大学で教鞭を執り、日本の憲法学説に大きな影響を与えました。八束も貴族院議員を務め、正三位勲一等に叙せられるなど、学者としての地位と併せて国家への貢献が認められました。

この学術と公職を重んじる伝統は、次の世代にも引き継がれます。陳重の長男である穂積重遠（しげとお）は、「日本家族法の父」と称されるほど、家族法分野で革新的な研究を行い、その体系化に貢献しました。彼は東京帝国大学の教授、法学部長を務めた後、日本の司法の最高府である最高裁判所の判事に就任しました。

陳重の二男、律之助（りつのすけ）は、海軍の技術将校として活躍し、海軍造船少将に昇進しました。三男の真六郎（しんろくろう）は、官僚となり朝鮮総督府で要職を務めた後、戦後には参議院議員として政治の世界でも活動しました。

さらに時代が下り、重遠の子である穂積重行（しげゆき）は、歴史学者（専攻は近代イギリス史）として研究・教育に携わり、大東文化大学の学長を務めています。

穂積家は、鈴木重麿・穂積重樹による国学、穂積陳重・八束による近代法学・憲法学、そして重遠による家族法と、日本の近代における学術、特に人文・社会科学の発展に中心的な役割を果たしました。

また、穂積家は、当時の日本の政財界、学界、文化界を代表する多くの名家と姻戚関係を結んでいることでも知られています。例えば、穂積陳重の妻・歌子は、日本の近代化を牽引した大実業家、渋沢栄一の長女です。陳重・歌子夫妻の子女は、渋沢栄一の親族や、農政家・政治家の石黒忠篤、英文学者の市河三喜、そして哲学者の長谷川三千子（市河の孫）といった面々と結ばれました。また、穂積八束の妻は浅野財閥の創始者・浅野総一郎の娘であり、その娘は生物学者の箕作佳吉の息子と結婚しています。さらに、穂積重遠の妻は、日露戦争の英雄である陸軍大将・児玉源太郎の娘です。真六郎の妻は国文学者・芳賀矢一の娘であり、その義兄弟には尾高惇忠と渋沢栄一の孫がいます。これらの広範な姻戚関係は、穂積家が当時の日本のエリート層の中でいかに重要な位置を占めていたかを物語っています。

このように、穂積家は古代の由緒ある家系に連なりながらも、近代において学術、特に法学分野で顕著な功績を挙げ、さらに政府、経済界、軍部など国の枢要な分野に人材を輩出し、多くの著名な家系と深く結びついた、日本の近代史において非常に重要な役割を果たした家系と言えます。

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