穂積氏

穂積氏の概要

穂積氏は、「穂積」を氏の名とする古代豪族です。その祖先は、神武天皇以前に大和入りしたとされる饒速日命と伝えられる神別氏族です。物部氏、采女氏、熊野国造家、末羅国造家と同族関係にあります。

姓（かばね）は、当初は穂積臣でしたが、天武天皇13年（684年）の八色の姓制定に伴い、穂積朝臣に改姓しました。本拠地は大和国山辺郡穂積邑および十市郡保津邑でした。

出自

『新撰姓[[氏録]]』によると、穂積氏は饒速日命の六世孫とされる崇神朝の大水口宿禰を遠祖としています。さらに遡ると、孝元朝の内色許男命（鬱色雄命）が遠祖となり、その妹の鬱色謎命は孝元天皇の皇后となり、大彦命と開化天皇を生んだとされています。

また、『古事記』には、穂積氏の遠祖として建忍山垂根が記されており、その娘の弟財郎女は成務天皇の妃となり、和謌奴気王を産んでいます。

『日本書紀』に登場する日本武尊の妃・弟橘媛の父である穂積氏忍山宿禰も、建忍山垂根と同一人物とされています。

歴史

穂積氏の具体的な活動が記録に現れるのは、6世紀前半の穂積押山からです。

押山は継体天皇に仕え、継体6年（512年）には百済への使者として任那に駐在し、任那加羅の哆唎の国守となりました。彼は任那のうち4県を百済に割譲する事に尽力したとされています。

押山は臣の姓を持ちながら、『百済本記』では「委意斯移麻岐彌（わのおしやまきみ）」と呼ばれています。これは、554年に筑紫国造が戦功により威徳王から「鞍橋君」の名を与えられたように、百済王と押山に特別な関係があったためと考えられています。

次に記録に登場する穂積磐弓は、欽明天皇16年（555年）に蘇我稲目とともに吉備国の五郡に赴き、白猪屯倉を設置しました。

穂積祖足は、推古天皇8年（600年）に任那日本府救援のため、征新羅副将軍に任命され、約1万の軍勢を率いて新羅に出兵し、五つの城を攻略して新羅を降伏させました。

飛鳥時代の穂積咋は、小乙下、大山上となり、大化元年（645年）に初の東国国司に任命されました。また、大化5年（649年）には、謀反の疑いをかけられた右大臣・蘇我倉山田石川麻呂の逃亡先である山田寺を軍兵で包囲し、自害していた石川麻呂の首を斬り落としました。

咋の子には、壬申の乱（672年）で近江方の武将となった穂積百足、穂積五百枝の兄弟がいます。彼らは当初、大友皇子（弘文天皇）のために兵力動員の使者となりましたが、兄の百足が殺害され、軍の指揮権を奪われると、大海人皇子（天武天皇）に従いました。

天武天皇13年（684年）の八色の姓制定に伴い、穂積氏は52氏の一つとして朝臣の姓を賜りました。直広肆・穂積虫麻呂は朱鳥元年（686年）正月に新羅使・金智祥を饗するため、川内王や大伴安麻呂らと共に筑紫国に派遣され、同年9月には天武天皇の殯庭で諸国司のことを上奏しています。

持統天皇3年（689年）、務大肆・穂積山守は、竹田王や藤原不比等らと共に判事に任命され、和銅5年（712年）には正五位下に至りました。持統天皇5年（691年）には、先祖の墓記を上進するよう命じられた18氏の中に穂積氏も含まれており、これは後に日本書紀の元になったとされています。

万葉歌人の穂積老は、大宝3年（703年）に山陽道巡察使に任命され、和銅3年（710年）には左将軍大伴旅人のもと、副将軍として騎兵、隼人・蝦夷らを率いて行進しました。養老2年（718年）に藤原武智麻呂が式部卿に就任した際、式部大輔となりました。養老6年（722年）に不敬の罪で佐渡島に配流されますが、天平12年（740年）に恩赦で入京を許されました。その後、天平16年（744年）の難波京への遷都の際、恭仁京の留守官を務め、天平勝宝元年（749年）に死去しました。この時、大蔵大輔正五位上でした。

老以降の穂積氏は勢力が振るわず、天平18年（746年）に従五位下内蔵頭に任じられた穂積老人、天平神護元年（765年）に従五位上木工助に至った穂積小東人、女官の穂積多理らの記録が散見される程度となり、従五位下主税頭の穂積賀枯が延暦3年（784年）に散位頭に任じられたのを最後に、穂積氏の任官は途絶え、中央貴族から姿を消しました。

しかし、老の子とされる穂積濃美麻呂の流れを汲む紀州熊野系穂積氏からは、後に藤白鈴木氏が現れ、熊野信仰の広がりとともに各地に一族が分派し栄えました。

また、伊予国の旧宇和島藩士・穂積家出身で、日本民法典の起草者である穂積陳重もこの穂積氏の血統であると言われています。石切剣箭神社の社家である木積氏は穂積氏の末裔とされています。

まとめ

穂積氏は、古代から中世にかけて活躍した豪族であり、その歴史は日本の古代史を語る上で重要な要素の一つです。中央での勢力は衰退しましたが、その血脈は現代にも受け継がれています。

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