笠野原台地

笠野原台地は、鹿児島県鹿屋市に位置する、南北約13キロメートル、東西約10キロメートル、面積約60平方キロメートルに及ぶ広大な台地です。大隅半島の中央部に位置し、肝属平野の北西部に広がっています。九州南部において最大規模のシラス台地であり、その平坦な地形が特徴です。

地理

この台地は約2万5千年前、姶良カルデラの大噴火によって発生した入戸火砕流の堆積物で形成されました。台地全体が非常に平坦で起伏が少なく、所々に川が谷を刻んでいます。台地の表面は南北に緩やかに傾斜しており、北部は標高約180メートル、南部は標高約20メートルとなっています。台地の縁には、西側と南側を肝属川、北側と東側を串良川が流れ、自然の境界を形成しています。平坦な土地は主に畑として利用されていますが、南西部には鹿屋市街地が広がっています。また、風の通り道になりやすいため、台風などの強風による被害を防ぐために屋敷森が発達しています。

歴史

笠野原台地は、水源が乏しく、保水性の低い土壌のため、かつては農耕に不向きな荒れ地でした。しかし、1704年（宝永元年）に苗代川から朝鮮系住民が移住し、開拓が始まりました。1725年（享保10年）には、集落の北方に玉山宮という神社が建立され、故郷の神霊が祀られました。1784年（天明4年）には、大飢饉をきっかけに甑島列島から多くの人々が移住してきましたが、中には薩摩半島の人口過剰対策として強制的に移住させられた人々もいました。

江戸時代末期までに、台地の約3割が開墾されましたが、水不足は依然として大きな課題でした。台地南部では井戸水を利用できましたが、中部では深さ50メートル以上、場所によっては80メートル以上もの井戸を掘る必要があり、牛の力も借りていました。北部では井戸から水を汲み上げることが困難だったため、川から馬で水を運んでいたそうです。1818年から1843年の間に掘削された深さ約64メートルの土持堀の深井戸は、現在では鹿児島県の指定史跡となっています。

1914年（大正3年）の桜島の大正大噴火による火山灰被害をきっかけに、耕地整理事業が始まりました。1921年（大正10年）に県立の土地利用研究所、1924年（大正13年）には耕地整理組合が設立され、上水道の敷設と区画整理が大規模に行われました。1925年（大正14年）から1934年（昭和9年）にかけて約80万円の費用をかけ、台地は碁盤目状に区画整理され、畑として生まれ変わりました。

1927年（昭和2年）には、農林省が500戸の農家を移住させる計画を立てましたが、鐘淵紡績（現・クラシエホールディングス）の子会社、昭和産業の進出により、計画は大きく変更されました。昭和産業は桑畑の農地として笠野原台地を選び、広大な土地を買収したため、土地不足や地価の高騰が発生。当初の目的であった小作人の移住は、146戸にとどまりました。昭和産業は第二次世界大戦後の農地改革により、1951年（昭和26年）に笠野原台地から撤退しています。

区画整理後も、農業用水の不足は解消されず、乾燥に強いサツマイモやアブラナなどの限られた作物しか栽培できませんでした。そのため、1955年（昭和30年）から国営笠野原畑地灌漑事業が実施されることになりました。高隈ダムの建設による灌漑計画が進められましたが、開発負担金や非民主的な対応により、農民の間で大規模な反対運動が起こりました。しかし、1962年（昭和37年）に補償問題が解決し、1967年（昭和42年）に高隈ダムが完成。これにより、大規模な灌漑が可能となり、野菜や飼料作物の栽培が盛んになり、笠野原台地は鹿児島県内有数の畑作・畜産地帯へと発展しました。

年表

1704年 - 苗代川より朝鮮系住民が移住
1784年 - 甑島から郷士が移住
1900年 - 笠野原台地初の水道となる竹管水道を設置
1924年 - 笠之原耕地整理組合を設立
1927年 - 上水道の整備事業が完了
1929年 - 昭和産業が進出
1935年 - 区画整理が完了
1951年 - 昭和産業が撤退
1954年 - 南九州総合開発計画が決定され、開発特定地域に指定される
1955年 - 国営笠野原畑地灌漑事業が閣議決定される
1967年 - 高隈ダムが完成
2014年 - 東九州自動車道鹿屋串良JCTと大隅縦貫道（串良鹿屋道路）が開通

名称の由来

笠野原台地の名称は、現在の肝付町富山地区にあった笠野薬師に由来します。笠野薬師は、大隅国設置前の708年に創建されたと伝えられ、日向三薬師の一つとして知られています。

参考文献

栄喜久元　『かごしま文庫15　かごしま・川紀行』　春苑堂出版、1994年、ISBN 4-915093-21-2
佐野武則　『かごしま文庫37　シラス地帯に生きる』　春苑堂出版、1997年、ISBN 4-915093-44-1
横山勝三　『シラス学　−　九州南部の巨大火砕流堆積物』　古今書院、2003年、ISBN 4-7722-3035-1
千葉昭彦「不毛の台地が近代的農業地域に - 鹿屋市笠野原」『九州地図で読む百年』古今書院、平岡昭利編、1997年、163-168頁、ISBN 4-7722-1665-0

もう一度検索