第三次ペルソ・テュルク戦争

第三次ペルソ・テュルク戦争：東ローマも巻き込んだコーカサスの戦い

第三次ペルソ・テュルク戦争は、7世紀前半にサーサーン朝ペルシアと西突厥の間で勃発した、三度目にして最後の戦いです。この戦争は、東ローマ帝国も深く関与し、南コーカサス地方を主戦場として繰り広げられました。この戦いが、その後の中東地域における勢力均衡に大きな影響を与えることになります。

戦争の背景：複雑な国際関係

当時の国際情勢は複雑に絡み合っていました。東ローマ帝国は、アヴァール人と結託したサーサーン朝との間で長きにわたる戦い（東ローマ・サーサーン戦争）を繰り広げており、政治的に孤立していました。アルメニアやイベリアといった南コーカサスの国々も、宗教的な対立やサーサーン朝との友好関係維持のため、東ローマ帝国に協力的ではありませんでした。

このような状況を打破するため、東ローマ帝国のヘラクレイオス帝は、新たな同盟者として西突厥の統葉護可汗に目を付けました。当時、西突厥は交易問題を巡ってサーサーン朝との関係が悪化しており、東ローマ帝国との連携に傾いていました。568年には、ソグド人の外交官を通じて東ローマ帝国に同盟を提案していたほどです。

625年、ヘラクレイオス帝は西突厥に使者を派遣し、軍事支援の見返りとして莫大な富を約束しました。統葉護可汗も、シルクロードの交易路確保という目的のために、この提案を受け入れました。こうして、東ローマ帝国と西突厥の同盟が成立し、サーサーン朝を挟み撃ちにする体制が整ったのです。

デルベントの陥落：侵攻の幕開け

627年初頭、西突厥とハザールの連合軍は、カスピ海沿岸の要衝デルベントに侵攻しました。デルベントは、サーサーン朝が築いた堅固な要塞であり、北コーカサスからアルバニアへと続く重要なルート上に位置していました。統葉護可汗率いる重騎兵部隊はデルベントを猛攻し、アルバニアを蹂躙し、徹底的に略奪しました。このデルベントの陥落は、アルバニア全域にパニックを引き起こし、アルバニア軍は首都から撤退を余儀なくされました。

トビリシの包囲：同盟の綻び

西突厥と東ローマ帝国の次の標的は、サーサーン朝に臣従していたイベリア公国でした。連合軍は、イベリア公国の首都トビリシを包囲しました。ヘラクレイオス帝と統葉護可汗は、トビリシ城壁の麓で会見し、同盟関係を強化しました。しかし、包囲戦は長期化し、守備側の抵抗も激しく、なかなか進展しませんでした。2か月後、ハザール軍は撤退し、統葉護可汗も一部の軍勢を残して本国へ帰還しました。東ローマ軍は単独で包囲を続けることになり、イベリア側の挑発を受けるなど苦戦を強いられました。

その年の12月、ヘラクレイオス帝はトビリシの包囲を一部残しペルシアへ進軍し、ニネヴェの戦いでサーサーン朝軍を打ち破りました。この勝利により、東ローマ帝国の対サーサーン朝戦況は大きく好転しました。

トビリシの陥落とその後：終焉と影響

ヘラクレイオス帝の勝利後、統葉護可汗は急遽トビリシの包囲を再開し、都市を攻略しました。ジョージア人は抵抗することなく降伏しましたが、都市は略奪され、住民は虐殺されました。ペルシアの太守とイベリア公は捕らえられ、処刑されました。

トビリシ攻略後、統葉護可汗はアルバニアを西突厥の領土に組み込むことを企図していましたが、628年に暗殺され、その計画は頓挫しました。629年、西突厥軍は南コーカサスから撤退しましたが、630年には再び侵攻し、サーサーン朝軍を破りました。しかし、その後はサーサーン朝の反撃に遭い、最終的に撤退しました。

第三次ペルソ・テュルク戦争は、東ローマ帝国とサーサーン朝の長きにわたる戦いの一部であり、中東地域における勢力均衡に大きな影響を与えました。また、西突厥の南下政策や、その後のハザール帝国の台頭など、中央ユーラシアの歴史にも重要な影響を及ぼしました。

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