第三次奴隷戦争

第三次奴隷戦争：スパルタクス反乱の詳細



第三次奴隷戦争は、紀元前73年から71年にかけて共和政ローマ期にイタリア半島で発生した、剣闘士スパルタクスを指導者とする奴隷による大規模な反乱です。この反乱は、ローマ軍との激しい戦いの末に鎮圧されましたが、ローマ社会に大きな衝撃を与え、後世の思想家たちにも大きな影響を与えました。この戦争は、スパルタクスの反乱、スパルタクスの乱、スパルタクスの蜂起、グラディアトルの反乱などとも呼ばれます。

背景



紀元前3世紀後半から、ローマは領土拡大のため対外戦争を繰り返しました。これにより、ローマ市民であり農民でもあった兵士たちは、長期間の従軍で土地を失い、元老院階級や騎士階級がその土地を吸収し、大土地所有制を築きました。彼らは、征服地から大量の奴隷を輸入し、農場で働かせました。奴隷は過酷な環境下で扱われ、反乱の温床となりました。

紀元前135年には第一次奴隷戦争、紀元前104年には第二次奴隷戦争が勃発し、いずれも数万人規模に拡大しました。しかし、これらの反乱は鎮圧され、奴隷制度に対する深刻な脅威とはみなされていませんでした。イタリア本土での奴隷の反乱は想定外であり、ローマ市に対する脅威とも考えられていませんでした。この認識は、第三次奴隷戦争の勃発によって大きく変わることになりました。

戦争の勃発



剣闘士養成所からの脱走



紀元前1世紀のローマでは、剣闘士試合は人気の娯楽であり、各地に剣闘士養成所がありました。これらの養成所では、戦争捕虜や奴隷、志願した自由民が剣闘士としての訓練を受けていました。剣闘士は、試合に勝てば富と名声を得られましたが、社会的には最下層の存在とみなされ、過酷な境遇に置かれていました。

反乱を指導したスパルタクスは、トラキア出身の剣闘士奴隷で、カプアの養成所に所属していました。紀元前73年、約70人の剣闘士奴隷が養成所を脱走し、スパルタクスを指導者として、反乱を起こしました。脱走奴隷たちは、調理道具を武器に脱出し、馬車から剣闘士用の武器を手に入れると、カプア周辺を略奪しながら奴隷を集め、ウェスウィウス山に立て籠もりました。

ローマ軍との衝突



ローマ政府は当初、この反乱を治安悪化とみなしていましたが、奴隷軍の勢力が増大すると、法務官グラベル率いる討伐軍を派遣しました。しかし、奴隷軍はグラベル軍を奇策で破り、続く法務官ウァリニウス率いる軍も撃破しました。これらの勝利により、奴隷軍は7万人規模に膨れ上がり、南イタリア各地を襲撃しました。

奴隷軍の構成と目的



奴隷軍の規模は、最盛期には12万人から20万人に達し、剣闘士、牧人奴隷、脱走奴隷、手工業奴隷、貧農、ローマ軍団からの逃亡者など、様々な人々で構成されていました。民族的には、ゲルマン人、ケルト人、トラキア人、イタリア人などがいました。スパルタクスは、略奪品を平等に分配し、無用な暴行や略奪を禁じ、軍規を厳正に保ちました。

奴隷軍の目的については諸説あります。アッピアノスやフロルスはローマ進軍を目標としていたと述べていますが、プルタルコスは、スパルタクスがガリア・キサルピナに北上して仲間たちを故郷に帰すことを望んでいたと述べています。近現代の研究者の中には、奴隷たちがアルプスを越えて自由を得ようとしたグループと、南イタリアに留まって略奪を続けようとしたグループに分裂したという説を唱える者もいますが、別行動によるもので分裂ではないとする説もあります。

ローマ軍の反撃



執政官軍の敗北



紀元前72年、奴隷軍は北上し、ガリア・キサルピナを目指しました。これに対し、ローマ元老院は執政官レントゥルスとゲッリウス率いる軍団を派遣しました。ゲッリウスの軍団は、ガルガヌス山麓でクリクススの率いる軍を破りましたが、その後の戦闘で、スパルタクス軍は執政官軍を撃破しました。

執政官軍の敗北後、スパルタクスは北上を続け、ムティナではローマ軍を破りました。しかし、アルプス越えは実行されず、奴隷軍は再び南下を始めました。その理由は諸説ありますが、地理的要因や内部の意見対立などが指摘されています。

クラッススの登場



紀元前71年、ローマ元老院は反乱鎮圧のため、マルクス・リキニウス・クラッススを最高司令官に任命しました。クラッススは8個軍団を率い、厳格な規律で軍隊を統率しました。クラッススはスパルタクス軍を南に押し戻し、カラブリアに追い詰めました。

スパルタクスはシチリア島への脱出を試みましたが、海賊に裏切られ、失敗に終わりました。その後、クラッスス軍に包囲されたスパルタクス軍は、決戦を挑みましたが、敗北し、壊滅しました。スパルタクスも戦死し、その遺体は見つかりませんでした。

戦争の終焉



ポンペイウスが帰還し、増援部隊を率いて参戦しました。しかし、ポンペイウス軍はスパルタクス軍との直接的な交戦は避け、残党の掃討に力を注ぎました。反乱奴隷の多くは戦場で命を落としましたが、生き残った6000人はアッピア街道沿いに磔にされました。

戦後



この戦争での勝利により、クラッススとポンペイウスは政治的な利益を得ました。彼らは紀元前70年の執政官に選出されましたが、二人の関係は次第に悪化しました。

第三次奴隷戦争は、ローマ社会の奴隷制度に影響を与えました。奴隷に対する扱いが多少改善され、奴隷に財産の一部を与える動きが出てきました。また、大農場では奴隷の数が減少し、自由民との小作契約が増えました。奴隷の法的地位も徐々に変化し、虐待に対する保護が進みました。

後世への影響



同時代のローマ人は、スパルタクスの反乱を卑しい奴隷による騒乱とみなしましたが、近世以降、ヴォルテールやカール・マルクス、ウラジーミル・レーニンなどの思想家によって再評価されました。

ヴォルテールはスパルタクスの蜂起を「歴史上唯一の正しい戦争」と評価し、マルクスはスパルタクスを「古代プロレタリアートの真の代表者」と評しました。レーニンもスパルタクスの蜂起を「抑圧された階級を擁護するために起こした正義の戦争」と述べています。

スパルタクスの名は、解放を求める労働者階級の象徴となり、社会主義者や共産主義者の間で偶像的存在となりました。しかし、自由主義陣営からは、共産主義的な視点での歴史解釈を批判する声も上がりました。

作品



スパルタクスの生涯は、多くの小説、バレエ、映画、テレビドラマの題材となっています。


第三次奴隷戦争は、古代ローマの歴史における重要な出来事であり、その影響は現代にも及んでいます。スパルタクスの反乱は、抑圧に対する抵抗の象徴として、歴史にその名を刻んでいます。

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