第3回全日本フォークジャンボリー
1971年8月7日から9日にかけて、岐阜県恵那郡坂下町（現中津川市）の椛の湖畔を舞台に、第3回全日本フォークジャンボリーが開催されました。これは通称「中津川フォークジャンボリー」として知られる大規模な野外音楽イベントです。
この年のジャンボリーには、約60組のアーティストが出演し、観客数は諸説あるものの、1万8千人から3万人に及んだとされます。入場料は3日間通しで1000円と設定されていました。開催前の告知では「強烈な紫外線とおいしい空気、デコイチにSexRock、そしてあふれる自由」といったフレーズが使われるなど、既成概念を打ち破るような雰囲気が打ち出されていました。
会場にはメインステージと、フォーク・ロックに分かれた二つのサブステージがあり、さらに黒テントや野外映画館なども設けられるなど、多岐にわたる企画を含む複雑な構成でした。音響設備（PA）は十分な性能を持たず、メインステージは1万人程度、サブステージは各100人程度の収容力しかありませんでした。
「フォークジャンボリー」と銘打たれていましたが、実際にははっぴいえんど、はちみつぱいといったロック系のバンドや、日野皓正、安田南のようなジャズアーティストも出演し、ジャンルの区分は曖昧でした。このため、出演者の間ではステージ割りや出演順を巡る不満やトラブルが頻発し、さらに大規模イベント運営のノウハウが不足していたこともあり、会場全体は収拾がつかない混沌状態に陥りました。
メインステージでは、人気絶頂だったはしだのりひことクライマックスが、商業主義を批判する観客の標的となり、物が投げられ、激しいヤジが飛び交うなど、演奏続行が困難な状況となり、彼らは演奏を中断せざるを得ませんでした。次にステージに立ったかまやつひろしも、かつてないほどの緊張を感じたと後に語っています。観客として参加していた北山修は、会場が吉田拓郎と岡林信康の両陣営に分かれ、殺気立った雰囲気の中で怒号が飛び交う様子を恐怖とともに記憶しています。
特に語り草となっているのが、初参加だった吉田拓郎のサブステージでのパフォーマンスです。彼は自身の人気にもかかわらずサブステージに割り当てられたことに不満を抱き、関西系のレーベルURC所属アーティストとの間に軋轢が生じるなど、東京対大阪、ELEC対URCといった対立構造が垣間見えました。
このコンサートの模様は複数のレコード会社によって録音され、会場にはテレビカメラも持ち込まれていましたが、これに一部の観客が主催者側の商業的な姿勢に疑問を呈し、騒動を起こしました。2日目の夕方、数百人規模のサブステージで演奏を始めた拓郎は、商業主義的な動きへの反発を背景に、盛んに観客を扇動しました。PAトラブルが発生すると、彼は小室等や六文銭をステージに呼び、「メインに負けないぞ！」と叫び、「人間なんて」をマイク無しで演奏続行しました。
何かに憑かれたような拓郎の熱唱と「人間なんて」という単純な歌詞の繰り返しは、観客を次第に引きつけ、200人程度の収容スペースに1000人ほどが押し寄せました。観客も現代でいうコール＆レスポンスのように一体となって応じ、会場を巻き込む歌声が広がっていきました。現場を目撃した牧村憲一は、その圧倒的なパフォーマンスをボブ・ディランやジェームス・ブラウンにも例え、一種のトランス状態が現出したと評しています。演奏が長時間に及び、拓郎の声が出なくなってきた頃、観客はさらに前方へ詰めかけ、事故寸前の危険な状況となりました。拓郎は「ここはサブではなく、こっちがメインステージだ！」と叫び、「メインステージに行こう！」と呼びかけました。これに呼応した小室等は状況収拾のため「もうここはおしまいにしよう」「メインに行こう！」と呼びかけ、苛立ちを募らせた観客の一部が呼応し、集団となってメインステージへ向かう一幕もありました。この出来事がコンサートの中断の直接的な原因であるかのように語られることもありましたが、実際の中断は夜遅くであり、様々な要因が重なった結果と見られています。このエピソードは、吉田拓郎の名声と共に広く知られるようになりました。
コンサートの中断（流会）は、この集団移動だけでなく、様々な要因が重なって発生しました。運営側も観客も、大規模な野外コンサートへの対応に不慣れでした。スタッフはわずか30人程度で、膨れ上がった観客数に対応できませんでした。麓の町では食料が早々に底をつき、会場の椛の湖は雨で濁り、水浴びも困難でした。開墾されたばかりの地面は赤土が露出し、雨でぬかるんでいました。トイレも不足し、会場の衛生状態は劣悪でした。疲労、不眠、空腹が観客の不満を増幅させ、場の雰囲気は荒れていきました。
夜になり、メインステージでは怒声が飛び交い、一部の観客が放火しようとするなど、さらに状況が悪化しました。一旦は岡林信康や三上寛のステージで落ち着きを取り戻しましたが、その後、ジャズアーティストの出演に対して「なぜフォークジャンボリーにフォーク以外のアーティストが出るのか」という不満が再燃しました。午後10時頃、安田南のステージが始まると、「やめろ」「帰れ」といった激しい野次が浴びせられ、ついには物が投げ込まれました。安田は歌を聴きに来た観客のために演奏を続けようとしましたが、ステージに数十人の観客が上がり込み、マイクを奪って占拠しました。彼らは自分たちの主張を演説し始め、実行委員会との討論会のような状態となりました。ステージは暴徒化した観客に占拠され、花火が打ち込まれるなど騒然となり、この状態が夜明けまで続きました。コンサートはそのまま自然流会し、3日間の予定は2日目で打ち切りとなりました。観客側の要求は、特定のメディアや商業資本の排除などでした。
当時のフォークコンサートでは、こうした途中の討論会がしばしば見られました。現代では想像しにくい出来事ですが、当時の音楽シーンには未成熟さや若さ、青さがあったとも言えます。この騒動を扇動したとされる特定のグループの存在や、流会の真の目的については、関係者や評論家の間で様々な見解が示されています。
この第3回ジャンボリーは、後の日本の音楽史に大きな影響を与えました。この出来事を境に、日本の音楽シーンは岡林信康を中心としたフォークから、吉田拓郎に象徴される「スターの時代」へと移行したと評されています。また、拓郎のアルバム『人間なんて』に参加したミュージシャンたちは、その後の日本のロックやJ-POPの礎を築いていきました。多くの評論家や関係者が、このジャンボリーを日本の音楽シーンにおけるフォークとロックの分岐点、あるいは大きな転換点として位置づけています。
このコンサートの実況録音盤は、1971年に複数のレコード会社から計6枚リリースされました。映像記録もテレビマンユニオンによって撮影・保管されているとされますが、現存が確認されていないとの話もあります。会場に隣接する椛の湖で高校生が溺死する事故も発生しており、運営側の対応には限界があったことがうかがえます。主催者代表であった笠木透は、当初からこの第3回で終了する予定だったことや、イベント規模が手に負えなくなったことを後に語っています。また、わずかに生じた利益は、事故で亡くなった高校生へのお見舞金として渡されたという証言もあります。
第3回全日本フォークジャンボリーは、当時のマスメディアにも大きく取り上げられ、その混乱や中断も含めて広く知られることとなりました。この出来事がなければ、単なる一過性の流行で終わったかもしれないフォークジャンボリーが、戦後日本の文化史における重要な出来事として、後世まで語り継がれることになったと言えるでしょう。それは、70年安保や学生運動の終焉と時期が重なり、「模索の時代」から「スターの時代」への移行を象徴する出来事として、社会情勢とも関連づけて位置づけられています。
様々な混乱や問題を含みつつも、多くの若者を集め、後の音楽シーンに多大な影響を与えたこのイベントは、まさに伝説的な存在となっています。
この年のジャンボリーには、約60組のアーティストが出演し、観客数は諸説あるものの、1万8千人から3万人に及んだとされます。入場料は3日間通しで1000円と設定されていました。開催前の告知では「強烈な紫外線とおいしい空気、デコイチにSexRock、そしてあふれる自由」といったフレーズが使われるなど、既成概念を打ち破るような雰囲気が打ち出されていました。
会場にはメインステージと、フォーク・ロックに分かれた二つのサブステージがあり、さらに黒テントや野外映画館なども設けられるなど、多岐にわたる企画を含む複雑な構成でした。音響設備（PA）は十分な性能を持たず、メインステージは1万人程度、サブステージは各100人程度の収容力しかありませんでした。
「フォークジャンボリー」と銘打たれていましたが、実際にははっぴいえんど、はちみつぱいといったロック系のバンドや、日野皓正、安田南のようなジャズアーティストも出演し、ジャンルの区分は曖昧でした。このため、出演者の間ではステージ割りや出演順を巡る不満やトラブルが頻発し、さらに大規模イベント運営のノウハウが不足していたこともあり、会場全体は収拾がつかない混沌状態に陥りました。
メインステージでは、人気絶頂だったはしだのりひことクライマックスが、商業主義を批判する観客の標的となり、物が投げられ、激しいヤジが飛び交うなど、演奏続行が困難な状況となり、彼らは演奏を中断せざるを得ませんでした。次にステージに立ったかまやつひろしも、かつてないほどの緊張を感じたと後に語っています。観客として参加していた北山修は、会場が吉田拓郎と岡林信康の両陣営に分かれ、殺気立った雰囲気の中で怒号が飛び交う様子を恐怖とともに記憶しています。
特に語り草となっているのが、初参加だった吉田拓郎のサブステージでのパフォーマンスです。彼は自身の人気にもかかわらずサブステージに割り当てられたことに不満を抱き、関西系のレーベルURC所属アーティストとの間に軋轢が生じるなど、東京対大阪、ELEC対URCといった対立構造が垣間見えました。
このコンサートの模様は複数のレコード会社によって録音され、会場にはテレビカメラも持ち込まれていましたが、これに一部の観客が主催者側の商業的な姿勢に疑問を呈し、騒動を起こしました。2日目の夕方、数百人規模のサブステージで演奏を始めた拓郎は、商業主義的な動きへの反発を背景に、盛んに観客を扇動しました。PAトラブルが発生すると、彼は小室等や六文銭をステージに呼び、「メインに負けないぞ！」と叫び、「人間なんて」をマイク無しで演奏続行しました。
何かに憑かれたような拓郎の熱唱と「人間なんて」という単純な歌詞の繰り返しは、観客を次第に引きつけ、200人程度の収容スペースに1000人ほどが押し寄せました。観客も現代でいうコール＆レスポンスのように一体となって応じ、会場を巻き込む歌声が広がっていきました。現場を目撃した牧村憲一は、その圧倒的なパフォーマンスをボブ・ディランやジェームス・ブラウンにも例え、一種のトランス状態が現出したと評しています。演奏が長時間に及び、拓郎の声が出なくなってきた頃、観客はさらに前方へ詰めかけ、事故寸前の危険な状況となりました。拓郎は「ここはサブではなく、こっちがメインステージだ！」と叫び、「メインステージに行こう！」と呼びかけました。これに呼応した小室等は状況収拾のため「もうここはおしまいにしよう」「メインに行こう！」と呼びかけ、苛立ちを募らせた観客の一部が呼応し、集団となってメインステージへ向かう一幕もありました。この出来事がコンサートの中断の直接的な原因であるかのように語られることもありましたが、実際の中断は夜遅くであり、様々な要因が重なった結果と見られています。このエピソードは、吉田拓郎の名声と共に広く知られるようになりました。
コンサートの中断（流会）は、この集団移動だけでなく、様々な要因が重なって発生しました。運営側も観客も、大規模な野外コンサートへの対応に不慣れでした。スタッフはわずか30人程度で、膨れ上がった観客数に対応できませんでした。麓の町では食料が早々に底をつき、会場の椛の湖は雨で濁り、水浴びも困難でした。開墾されたばかりの地面は赤土が露出し、雨でぬかるんでいました。トイレも不足し、会場の衛生状態は劣悪でした。疲労、不眠、空腹が観客の不満を増幅させ、場の雰囲気は荒れていきました。
夜になり、メインステージでは怒声が飛び交い、一部の観客が放火しようとするなど、さらに状況が悪化しました。一旦は岡林信康や三上寛のステージで落ち着きを取り戻しましたが、その後、ジャズアーティストの出演に対して「なぜフォークジャンボリーにフォーク以外のアーティストが出るのか」という不満が再燃しました。午後10時頃、安田南のステージが始まると、「やめろ」「帰れ」といった激しい野次が浴びせられ、ついには物が投げ込まれました。安田は歌を聴きに来た観客のために演奏を続けようとしましたが、ステージに数十人の観客が上がり込み、マイクを奪って占拠しました。彼らは自分たちの主張を演説し始め、実行委員会との討論会のような状態となりました。ステージは暴徒化した観客に占拠され、花火が打ち込まれるなど騒然となり、この状態が夜明けまで続きました。コンサートはそのまま自然流会し、3日間の予定は2日目で打ち切りとなりました。観客側の要求は、特定のメディアや商業資本の排除などでした。
当時のフォークコンサートでは、こうした途中の討論会がしばしば見られました。現代では想像しにくい出来事ですが、当時の音楽シーンには未成熟さや若さ、青さがあったとも言えます。この騒動を扇動したとされる特定のグループの存在や、流会の真の目的については、関係者や評論家の間で様々な見解が示されています。
この第3回ジャンボリーは、後の日本の音楽史に大きな影響を与えました。この出来事を境に、日本の音楽シーンは岡林信康を中心としたフォークから、吉田拓郎に象徴される「スターの時代」へと移行したと評されています。また、拓郎のアルバム『人間なんて』に参加したミュージシャンたちは、その後の日本のロックやJ-POPの礎を築いていきました。多くの評論家や関係者が、このジャンボリーを日本の音楽シーンにおけるフォークとロックの分岐点、あるいは大きな転換点として位置づけています。
このコンサートの実況録音盤は、1971年に複数のレコード会社から計6枚リリースされました。映像記録もテレビマンユニオンによって撮影・保管されているとされますが、現存が確認されていないとの話もあります。会場に隣接する椛の湖で高校生が溺死する事故も発生しており、運営側の対応には限界があったことがうかがえます。主催者代表であった笠木透は、当初からこの第3回で終了する予定だったことや、イベント規模が手に負えなくなったことを後に語っています。また、わずかに生じた利益は、事故で亡くなった高校生へのお見舞金として渡されたという証言もあります。
第3回全日本フォークジャンボリーは、当時のマスメディアにも大きく取り上げられ、その混乱や中断も含めて広く知られることとなりました。この出来事がなければ、単なる一過性の流行で終わったかもしれないフォークジャンボリーが、戦後日本の文化史における重要な出来事として、後世まで語り継がれることになったと言えるでしょう。それは、70年安保や学生運動の終焉と時期が重なり、「模索の時代」から「スターの時代」への移行を象徴する出来事として、社会情勢とも関連づけて位置づけられています。
様々な混乱や問題を含みつつも、多くの若者を集め、後の音楽シーンに多大な影響を与えたこのイベントは、まさに伝説的な存在となっています。
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