紫香楽宮

紫香楽宮：聖武天皇と短命に終わった近江の都

奈良時代、聖武天皇は藤原広嗣の乱を機に恭仁京へ遷都しました。しかし、742年（天平14年）、天皇は近江国甲賀郡（現在の滋賀県甲賀市）に離宮を造営し、しばしば滞在するようになります。これが紫香楽宮（しがらきのみや）です。別名、信楽宮（しがらきのみや）や甲賀宮（こうかのみや）とも呼ばれました。

宮名の変遷と盧舎那仏

宮名の表記は史料によって異なり、「紫香楽」と「信楽」のどちらが正しいのか、議論があります。744年（天平16年）頃からは「甲賀宮」と呼ばれるようになり、これは単なる離宮から、甲賀寺と一体となった都としての性格を持つようになったことと関係していると考えられています。

743年（天平15年）、聖武天皇は紫香楽宮で盧舎那仏の造営を発願します。これは、恭仁京を唐の洛陽になぞらえ、洛陽と縁の深い龍門石窟の盧舎那仏を紫香楽宮で再現しようとしたものと推測されています。この発願は、紫香楽宮が都としての機能を強化していく過程を象徴する出来事でした。翌年には恭仁宮の造営は中止され、紫香楽宮の整備が優先されました。

甲賀宮：短命の都

744年（天平16年）11月には甲賀寺に盧舎那仏像の体骨柱が建立され、745年（天平17年）1月には甲賀宮は「新京」と呼ばれ、都としての体裁を整え始めます。宮門には大楯と槍が立てられ、流罪となっていた塩焼王も京に入ることを許されています。しかし、この甲賀宮（紫香楽京）は短命に終わりました。人臣の支持を得られなかったこと、山火事や天平地震などの天災に見舞われたことなどが原因とされます。同年5月、聖武天皇は平城京へ還ることになり、甲賀寺の盧舎那仏計画は東大寺盧舎那仏像として実現することになります。

紫香楽宮の立地と政治的背景

紫香楽の立地は、当時の感覚では山奥であり、都とすることに対しては様々な解釈があります。恭仁京周辺に勢力を持つ橘氏への対抗策として藤原仲麻呂らが関与したという説や、聖武天皇自身の仏教信仰に基づいて良弁や行基などの僧侶の助言を受けて選ばれたという説など、諸説が提唱されています。また、紫香楽宮放棄と大仏計画中止の原因として、紫香楽周辺で発生した不審な山火事に藤原氏や光明皇后が関わっていたとする説まであります。

宮跡と遺構

当初、信楽町内裏野地区の遺跡が紫香楽宮跡と考えられていましたが、その後、北約2kmの宮町遺跡から大規模な建物跡や大量の木簡が出土したことから、宮町遺跡が宮跡であるという説が有力となりました。現在では、宮町遺跡を含む広大な地域が国史跡「紫香楽宮跡」として指定されています。「宮町」「勅旨」「内裏野」などの地名も、往時の面影を伝えています。

交通アクセスと周辺情報

紫香楽宮跡へは、信楽高原鐵道信楽線・紫香楽宮跡駅下車、徒歩20分です。周辺には、かつての都である恭仁京も近接しています。

まとめ

紫香楽宮は、聖武天皇の深い仏教信仰と、複雑な政治情勢が絡み合った結果生まれた、短命ながら重要な歴史的拠点でした。その遺構は、現代にまで歴史の証言として残されています。

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