甲賀寺

甲賀寺（こうかでら/こうがでら）とは

甲賀寺は、奈良時代に近江国甲賀郡（現在の滋賀県甲賀市）の紫香楽（しがらき、信楽）に存在した古代寺院の跡です。聖武天皇により、紫香楽宮（信楽宮/甲賀宮）と並行して総国分寺として建立が計画されましたが、都が平城京に戻されたため、計画は中止されました。寺院の跡地は、現在の滋賀県甲賀市信楽町黄瀬・牧地区に位置し、国の史跡「紫香楽宮跡」内裏野地区として指定されています。

歴史

742年、聖武天皇は恭仁京から近江国甲賀郡への道を開き、同年8月には紫香楽村に離宮の建設を命じました。743年10月15日には大仏造立の詔を出し、同月19日には盧舎那仏像を安置するために紫香楽に寺地を開きました。これが甲賀寺の始まりです。

744年11月13日には、文献上で初めて「甲賀寺」という寺名が見られ、盧舎那仏像の体骨柱が建てられ、聖武天皇自身が縄を引いたとされています。同月17日には、元正太上天皇が難波から「甲賀宮」（紫香楽宮から名称変更）に移り、甲賀宮は皇都としての様相を強めました。745年1月には、紫香楽宮は「新京」として事実上の皇都となりました。

その後も造営は進められましたが、同年4月からの山火事や地震の連続発生により、5月には聖武天皇が恭仁宮、次いで平城宮へと移り、甲賀宮は廃都となりました。甲賀寺の本格的な造営も、この廃都に伴い中止されたと考えられています。しかし、『正倉院文書』には、745年10月21日に「甲可寺」の造営の一部存続が認められ、747年1月19日の「甲可寺造仏所牒」にも造仏所の存在が確認されています。また、747年5月27日までは、甲賀寺の名称が存続していたと指摘する説もあります。

その後、751年12月18日の『正倉院文書』に「甲賀宮国分寺」という記述が見られ、これが甲賀寺の後身であるとする説が有力です。大仏造立は、平城京還都後に東大寺に引き継がれ、752年4月9日に開眼供養が行われました。

伽藍（がらん）

甲賀寺の正確な位置は特定されていませんが、紫香楽宮跡内裏野地区（現在の滋賀県甲賀市信楽町黄瀬・牧）に比定する説が有力です。この地区は、かつて紫香楽宮跡と考えられていましたが、その後の調査で寺院跡であることが判明しました。

内裏野地区の性格については、『正倉院文書』の「甲賀宮国分寺」の記載から、最終的には近江国分寺になったとする説が有力です。寺域で検出された火災痕は、『日本紀略』に記された785年の近江国分寺の焼失記事と合致します。そのため、甲賀寺が近江国分寺の前身であり、伽藍が国分寺に移行されたと考えられています。

一方、近江国分寺と甲賀寺は別々の計画であるとし、近江国分寺は近江国府付近（瀬田廃寺跡が候補地）に建立され、内裏野地区は甲賀寺として廃絶したとする説もあります。内裏野地区の主要伽藍は、東大寺と似た配置（東大寺式伽藍配置）ですが、寺域は東大寺よりも大幅に小さく（面積は3割弱）、金堂跡には大仏が収まらないという課題が残っています。

そのため、寺院の正確な構造を解明するためには、下層遺構の有無確認など、今後のさらなる調査が必要です。

まとめ

甲賀寺は、奈良時代に短期間存在した古代寺院であり、その歴史は日本の都の変遷と深く関わっています。聖武天皇による大仏建立の計画は、東大寺に引き継がれ、今日の姿に至っています。甲賀寺の跡地は、今もなお多くの謎を秘めており、今後の調査が期待されています。

参考文献

栄原永遠男 著、甲賀市教育委員会 編『天平の都と大仏建立 -紫香楽宮と甲賀寺-（改訂版）』甲賀市教育委員会、2012年。
笹山晴生「甲賀寺（こうがでら）」『国史大辞典』吉川弘文館。
「甲賀寺（こうかでら）」『日本歴史地名大系 25 滋賀県の地名』平凡社、1991年。ISBN 4582490255。
毛利憲一「甲賀寺（こうがでら）」『日本古代史大辞典』大和書房、2006年。ISBN 4479840656。
小笠原好彦『大仏造立の都 紫香楽宮（シリーズ「遺跡を学ぶ」020）』新泉社、2005年。ISBN 978-4787705402。
鈴木良章「紫香楽宮跡 -29年間の調査成果から-」『人間文化 37号（滋賀県立大学人間文化学部研究報告） (PDF)』公立大学法人滋賀県立大学人間文化学部、2014年、65-75頁。

関連項目

紫香楽宮
近江国分寺
東大寺（総国分寺）
東大寺盧舎那仏像

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