細井広沢

細井広沢

細井広沢（ほそい こうたく、万治元年10月8日（1658年11月3日） - 享保20年12月23日（1736年2月4日））は、江戸時代中期に活躍した儒学者、書家、篆刻家です。その名は知慎（ともちか）、字は公謹。二郎太夫（じろうだゆう）とも呼ばれ、広沢の号の他に玉川、思胎斎・蕉林庵・奇勝堂などの室号を用いていました。

生涯

遠江国掛川（現在の静岡県掛川市）で、細井玄佐知治（松平信之の家臣）の次男として生を受けました。父の主君である松平氏の転封に伴い、播磨国明石（現在の兵庫県明石市）へ移り住みます。その後、父が江戸詰めとなったのを機に、寛文12年（1672年）から朱子学を坂井漸軒に師事し、延宝5年（1677年）からは書道を北島雪山・都筑道乙に学びました。学問に対する探求心は旺盛で、兵学、歌道、天文、算数など、幅広い分野の知識を習得。その博識ぶりは高く評価され、元禄前期には柳沢吉保に200石で召し抱えられました。

剣術にも長けており、堀内正春に師事。堀内道場では、後に赤穂浪士として名を馳せる堀部武庸と親交を深めます。赤穂事件においては、堀部武庸を通じて浪士たちに協力。討ち入り口述書の添削や『堀部安兵衛日記』の編纂を任されるなど、その計画に深く関与しました。堀部武庸からの信頼は非常に厚く、その関係の深さが窺えます。

元禄15年（1702年）には、ある事件がきっかけで柳沢家を追われることになります。友人の弁護を買って出た広沢が、幕府側用人の松平輝貞（高崎藩主）の不興を買ってしまったのです。松平輝貞は柳沢家に圧力をかけ、広沢の放逐を要求。柳沢吉保は広沢の学識を惜しみつつも、この圧力に屈したとされています。しかし、吉保は広沢を放逐した後も、毎年50両を送り続け、関係を維持したと言われています。

享保20年（1735年）12月23日、波乱に満ちた生涯を閉じました。著書には、『国字国訓弁』『紫微字様』などがあります。明治30年（1897年）には、その功績が認められ、従四位が追贈されました。

書と篆刻

広沢は、書道の世界に多大な貢献をしました。『観鵞百譚』『紫微字様』『撥蹬真詮』など、書に関する著述を多数残しており、筆譜には『思胎斎管城二譜』があります。また、日本篆刻の先駆者として知られる初期江戸派の一人でもあります。蘭谷元定や松浦静軒らに学び、明代の唐寅や一元に師法。羅公権の『秋間戯銕』などを独学しました。榊原篁洲、池永一峰、今井順斎らとの交流を通じて、互いに研鑽を深めました。特に池永一峰とは、『篆体異同歌』を著し、正しい篆文の形を世に広めようと尽力しました。法帖の拓打においては、正面刷りの方法を考案し、『太極帖』を刻しています。広沢と子の細井九皋の印を集めた印譜『奇勝堂印譜』は、日本における文人篆刻の嚆矢とされています。

関思恭や柳沢淇園など、多くの門弟を育成しました。

墓所は東京都世田谷区等々力の満願寺にあり、この寺には広沢自刻の印が二十数顆伝えられています。

測量

測量家としても山崎流に属し、紅毛流測量術を研究しました。測量術をまとめた『秘伝地域図法大全書』を1717年に著し、玄黄儀を用いた測量について解説しています。この資料には、円周を360度に分割する度の方法が記されています。

参考文献

中田勇次郎『日本の篆刻』二玄社、1966年。

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