結婚 (ストラヴィンスキー)

ストラヴィンスキーの傑作バレエ・カンタータ『結婚』

イーゴリ・ストラヴィンスキー作曲のバレエ・カンタータ『結婚』（仏: Les noces, 露: Свадебка）は、20世紀を代表するバレエ作品の一つとして知られています。初演の振付を担当したブロニスラヴァ・ニジンスカの出世作であり、「20世紀のバレエ作品の最高傑作の一つ」と評されるなど、その芸術性の高さは今日においても高く評価されています。

作品成立の経緯

ストラヴィンスキーがこの作品の構想を始めたのは1912年頃とされていますが、実際に作曲に着手したのは1914年のことです。彼はキエフでロシア民謡集を収集し、その中から結婚に関する複数の民謡詩を選び、それらを基に台本を構成しました。主な資料は19世紀前半にピョートル・キレーエフスキーが収集した民謡集ですが、ストラヴィンスキーは元の詩に大幅な変更を加えています。作曲は1914年にモントルーで開始され、1915年にはセルゲイ・ディアギレフに最初の2場を演奏して聞かせました。その後、『きつね』の作曲や『ナイチンゲールの歌』の編曲などの仕事で一時中断しましたが、1917年には声楽パートを含むショートスコアを完成させ、オーケストレーションに取り掛かりました。当初は大管弦楽による編成を考えていましたが、規模が大きくなりすぎることを懸念して断念し、小オーケストラによる編成を試みたものの、これもまた断念。1919年には自動ピアノ、電気ハーモニウム、打楽器アンサンブル、2台のツィンバロムを用いた編成で作業を進めましたが、演奏の困難さからこれも中断しました。最終的に、1923年6月の舞台上演決定を受け、4台のピアノと打楽器アンサンブルによる編成が同年4月に完成しました。作品はディアギレフに献呈されています。

初演

1923年6月13日、パリのゲテ・リリック座において、バレエ・リュスによって初演されました。テキストはストラヴィンスキーが信頼を寄せていたシャルル・フェルディナン・ラミュによってフランス語に翻訳されました。振付はブロニスラヴァ・ニジンスカ、美術と衣装はナタリア・ゴンチャロワ、指揮はエルネスト・アンセルメが担当しました。4台のピアノはジョルジュ・オーリック、マルセル・メイエ、エドゥアール・フラマン、エレーヌ・リオンが演奏しました（当初予定されていたフランシス・プーランクとヴィットリオ・リエティは病気のため降板）。花嫁をフェリア・ドゥブロフスカ、花婿をレオン・ヴォイジコフスキが演じました。ストラヴィンスキー自身は初演での指揮と美術を賞賛しましたが、全体的な演出には不満を抱いていたとされています。

楽器編成

この作品は、以下の楽器編成で構成されています。

ピアノ4
シロフォン
ティンパニ4
クロタル2（H、Cis）
ベル
大太鼓
小太鼓2（スネア付きとスネアなし）
ドラム2（スネア付きとスネアなし）
タンバリン
シンバル
トライアングル
混声合唱（4声）
独唱4（ソプラノ、メゾソプラノ、テノール、バス）

作品の内容

作品は2部構成で、第1部はさらに3場に分かれています。登場人物が特定の歌手と一致しない点が特徴的です。教会旋法やロシア民謡を思わせる旋律は、第4場の一部を除き、すべてストラヴィンスキー自身のオリジナルです。打楽器を中心とした器楽パートは、ピアノやシロフォンも旋律的というよりは打楽器的に扱われています。ストラヴィンスキー自身は、この作品を田舎の結婚式を描写するものではなく、自由なディヴェルティスマン風の作品であると述べています。

第1部
第1場：お下げ髪（花嫁の家で）
花嫁ナスターシャ・ティモフェエヴナの髪を結婚式のために結い上げ、飾り付ける様子が描かれます。
第2場：花婿の家で
花婿フェティス・パンフィリエヴィチ側が結婚式の準備をする様子が描かれます。
第3場：花嫁の出発
短い場面で、曲は第1場のものに戻り、花嫁が結婚式に出発します。聖人への祈りが歌われ、花嫁の母親が悲しみに暮れる様子が描かれます。
第2部
第4場：結婚の祝宴
明確な筋はありませんが、爆発的な喜びに包まれます。酔っ払いのしゃっくりや、新郎新婦のベッドを温める夫婦の歌など、騒ぎが繰り広げられます。最後に、花嫁と花婿は寝室の扉の向こうに消え、神秘的な鐘の音が響き渡り、曲は終わります。

演奏・録音・映像

初演後、1926年にはユージン・グーセンスの指揮でロンドン初演、レオポルド・ストコフスキーの指揮でアメリカ初演が行われました。1959年には作曲家自身がニューヨークで指揮を執りました。1973年と1981年には、それぞれ補完された版が初演され、2005年にはプレザンス音楽祭で複数の版が演奏されました。

代表的な録音としては、

1959年、作曲家自身によるコロムビア盤
1961年、初演指揮者アンセルメによるデッカ盤
1965年、ピエール・ブーレーズ指揮のコンサート・ホール盤
1972年、シャルル・デュトワ指揮のエラート盤（フランス語版）
1977年、レナード・バーンスタイン指揮のドイツ・グラモフォン盤
エトヴェシュ・ペーテル指揮のフンガロトン盤（1917年版補完版）
ポクロフスキー・アンサンブルによるノンサッチ盤（器楽パートをコンピュータで再現）

などが挙げられます。

映像化されたものとしては、ニジンスカ版を用いた1991年のパリ・オペラ座版、2001年のロイヤル・バレエ版、2008年のマリインスキー劇場版があります。また、2012年にはフィリップ・ベジア監督による映画『Noces: Stravinsky / Ramuz』が公開されました。

振付

初演時のニジンスカ版は、現在でも英国ロイヤル・バレエ団のレパートリーに残っています。この版はスタンダードとして広く上演されており、その他にイリ・キリアン版、アンジュラン・プレルジョカージュ版などがあります。日本では、1998年に東京バレエ団がニジンスカ版を日本初演し、2013年には新国立劇場でも上演されました。

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