続史愚抄

『続史愚抄（ぞくしぐしょう）』は、江戸時代後期に権大納言であった柳原紀光によって編纂された編年体の歴史書です。全81冊に及び、亀山天皇が譲位を受けた正元元年（1259年）から、後桃園天皇が崩御した安永8年（1779年）までの、33代521年間にわたる歴史を記録しています。

体裁としては、六国史や『百錬抄』といった歴史書を継承する形式となっています。柳原紀光自身の序文には、六国史の最後の書である『日本三代実録』の巻末、仁和3年（887年）へと遡って接続させる構想があったことが記されています。実際に、朱雀天皇・三条天皇の時代を扱った草稿も現存しています。

編纂のきっかけは、紀光の父である柳原光綱が、六国史以降に正史が完成していないことを嘆き、その続編を編纂しようとしたものの、志半ばで死去したことにあります。紀光は父の遺志を継ぎ、安永6年（1777年）から執筆を開始しました。しかし、天明8年（1789年）に突如勅勘解官処分を受け、一時的に活動を制限されます。その後、処分は解除されたものの、紀光は出仕を避け、歴史書の編纂に専念しました。寛政5年（1793年）には中清書本が完成し、寛政10年（1798年）には清書本81冊が完成しました。しかし、清書本の校訂・浄書作業中に、寛政12年（1800年）に紀光が急逝したため、完成には至りませんでした。

記述形式は漢文の編年体で、天皇一代ごとに、その在位期間中に起こった出来事を年月日順に記載しています。内容は多岐にわたり、天皇の動静、朝廷の儀式や公事、摂関大臣の人事、社寺や災害など、公家社会を中心とした幅広い分野を扱っています。記事の記述は簡潔でありながらも、依拠した史料が注記されており、必要に応じて内容の解釈や考証も加えられています。そのため、史料としての価値は高く評価されています。特に、南北朝時代については、柳原家が仕えていた北朝を正統とする立場に基づいて記述されている点が特徴です。

紀光自筆の清書本は火災で失われてしまいましたが、転写本が宮内庁書陵部や内閣文庫に所蔵されています。また、焼失前に『国史大系』の底本としても使用されました。紀光自筆の中清書本は、一部が現存しており（正親町天皇以前の29冊は岩瀬文庫、後陽成天皇以降の19冊は宮内庁書陵部）、岩瀬文庫には東山天皇までの草稿本28冊と、後花園天皇までの未完の最終浄書本46冊も所蔵されています。これは、柳原家の旧蔵文書が同文庫に保管されていることによるものです。

参考文献
武部敏夫「続史愚抄」『国史大辞典 8』（吉川弘文館 1987年） ISBN 978-4-642-00508-1
小田雄三「続史愚抄」『日本史大事典 4』（平凡社 1993年） ISBN 978-4-582-13104-8
* 山口和夫「続史愚抄」『日本歴史大事典 2』（小学館 2000年） ISBN 978-4-09-523002-3

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