綜合武術格闘術

綜合武術格闘術（そうごうぶじゅつかくとうじゅつ）

概要

綜合武術格闘術は、太平洋戦争末期、本土決戦に備えるため、東京体育専門学校（現在の筑波大学）の柔道科師範であった塩谷宗雄によって考案された総合格闘術です。この格闘術は、徒手での格闘技術と、武器を用いた格闘技術の両方を含んでおり、実戦での使用を想定して作られました。柔道、空手、相撲、剣道などの様々な武道の要素を取り入れ、短期間で習得できるように簡素化された技術で構成されています。

当時、日本陸軍、文部省、厚生省の支援を受け、関東地方を中心に軍人、教師、役人などに普及しました。塩谷の構想では、戦争が継続していれば大日本武徳会の支援も得て全国に広める予定でしたが、終戦により実現せず、「幻の格闘術」となりました。

ベースボールマガジン社のムック「動きの達人入門２」では、平直行、和田良覚の二人がこの格闘術を実演し、その技術の一端を紹介しました。

歴史

第二次世界大戦末期、アメリカ軍が日本本土に迫る中、大本営は本土決戦を視野に入れ始めました。そのような状況下で、塩谷が学校関係者に指導していた格闘術が陸軍の目に留まり、採用されることとなりました。塩谷は、学徒を戦場に送るためにこの格闘術を開発したのではなく、あくまで本土決戦という状況下で国民が身を守るための手段として考案しました。その後、文部省の学徒体錬要綱にも「白兵戦技」として組み込まれました。

塩谷はその後、動員先の小田原の湯浅電池の工場で生徒たちと共に生活しながら、関東の軍や役所に出向いて訓練（格闘術では闘力練成と称した）指導を行ったり、格闘術に関する書籍を執筆しました。軍では、陸軍士官学校や陸軍戸山学校で展示が行われたほか、護東部隊、第53軍、第4師団などで本格的な闘力練成が実施されました。第4師団本部での錬成中には、大阪大空襲が発生し、爆撃の中を生き延びたというエピソードも残されています。

終戦後、塩谷は柔道の復興運動に尽力した後、格闘技指導からは静かに身を引き、労働者向けの体育の研究と普及に努めました。柔道では後に八段を取得しています。昭和60年にその生涯を閉じました。弟子の中には、北海道大学空手部の創始者である室木洋一がおり、北大空手部の稽古には塩谷の理論が取り入れられ、他部からも注目を集めたと言われています。

塩谷は晩年、綜合武術格闘術を「幻の格闘術」と呼びました。この言葉には、実際に使用されることがなかったという意味だけでなく、多くの人命を奪った戦争という出来事を二度と繰り返してはならないという強い思いが込められています。

技術

綜合武術格闘術の技術体系は、歩走、手榴弾投擲、打突、体当りの4つを基本要素としています。体育の観点から、全ての技を左右対称に行うことが特徴です。

徒手格闘では、当身と投げ技の両方を使用します。武器格闘では、軍刀、短剣、銃剣、手榴弾を主に用いるほか、鍬やシャベルなど、自分の職業で使うものを武器として使用することを奨励しています。格闘は、突進しながら行い、すれ違いざまに技を繰り出すように訓練します。訓練は、実戦に近い山野で行い、持久走の後に行うことが推奨されています。

技術体系は、以下の3つに分類されます。

徒手格闘
徒手格闘：その場、または前進、突進しながら打突を行います。突蹴連合も学びます。必要に応じて、巻藁のような仮標を使用します。
応用教育：試合形式で行います。防具なしで寸止めで行う互角訓練と、防具を着用して行う防具訓練があります。
試合：応用教育と同様の方法で行い、制限時間があります。
武器格闘（諸手軍刀術、短剣術、銃剣術）
基本訓練：その場、または前進、突進しながら打突を行います。必要に応じて、仮標や実際の武器を使用します。
応用訓練：銃剣と軍刀を想定し、徒手の技術も含めた格闘における武器の使い方を学びます。空手の約束組手の要領で行います。
総合格闘
徒手、武器を組み合わせた格闘訓練で、防具を着用して行います。
徒手対武器試合
武器試合
総合試合：武器、徒手が入り乱れて戦います。不期試合（円陣を組んで次々と試合を行う）の要領で行います。

試合では、有効な打突や投げの他に、相手を試合場から押し出す（「突き落とす」「落ちる」と表現する）ことでも勝利となります。また、持っている武器を落とすと負けになります。試合形式（一対多数、多数対多数など）は、実戦に近づけるために適宜変更されます。

手榴弾の訓練には、新聞紙などで作った軽い鞠を投げます。その他、捕虜を連行するための引立法、捕縛法なども訓練されます。

参考文献

塩谷宗雄「綜合武術格闘術」（雄松堂出版、1987年）
ベースボールマガジン社「動きの達人入門２」（ベースボールマガジン社、2004年）

外部リンク

パラベラム - 綜合武術格闘術とは？

関連項目

関東軍拳法：関東軍の永山喜一少将が創設した格闘術で、陸軍戸山学校で教えられました。
八光流柔術：大東流合気柔術を基にした護身術で、陸軍戸山学校で教えられました。
大東流合気柔術：後に合気道を創始する植芝盛平や弟子の富木謙治によって、陸軍憲兵学校、陸軍中野学校、陸軍戸山学校などで教えられました。
南蛮殺到流：延岡藩に伝わった古武道で、陸軍中野学校で教えられました。
松濤館流空手：陸軍中野学校二俣分校で教えられました。
フェアバーン・システム：イギリスの軍人が開発した近接格闘術で、アメリカ軍でも指導されました。
日本拳法：自衛隊格闘術のルーツとなりました。

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